誓約書無視で客を引き抜いた元社員。裁判で受けた意外な判決は?

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独立、もしくは競合他社に移った元社員による「顧客の引き抜き」が問題になることが多々あります。中には移籍前の社と交わした誓約書に批判する形で引き抜きを行うというケースも見られますが、法律的にはどのように判断されるのでしょうか。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、そんな元社員が訴えられた裁判の意外な結末を紹介しています。

顧客情報は秘密情報?

接客業においては特にそうかも知れませんが「顧客は人店員につく」という言い方をすることがあります。例えば、アパレル業界などの「カリスマ店員」といわれる人には転勤でお店が変わってもそのお店まで買いに行く熱心な顧客がいると言われています。これはおそらく、美容師や料理人でも同じでしょう。もしかしたらみなさんも経験があるかも知れません。

ただ、ここで問題になることがあります。それは「顧客の引き抜き」です。これが、同じ会社の別のお店であれば会社全体で見れば売上は変わらないので特に大きな問題は無いでしょう(お店間でのトラブルはあるのかも知れませんが)。ただこれが他の会社のお店であったり独立したお店であったりすると大きな問題になります(これは私が以前にいた会社でもたびたび問題になっていました)。

では実際に顧客の引き抜きがあった場合に、法律的にはどう判断されるのでしょうか。それについて裁判があります。ある美容系の会社が「元社員が顧客情報を利用して別の会社で営業をしている!」として、その元社員を訴えました。

その元社員は入社時に「退職後2年間は在職中に知り得た秘密情報を利用して同市内で競業は行わない」とする入社誓約書を提出していたにもかかわらずそれに違反したというのです。ではこの裁判はどうなったか。

会社が負けました

裁判所は「この誓約書は有効」と判断しつつも「ただし、顧客情報は秘密情報にはあたらない(よって競業にはならない)」としてこの会社の訴えを棄却したのです。なぜか。それは顧客情報の管理の仕方に問題がありました。この会社では以下のように管理していたのです。

  • 顧客カルテが社員であれば誰でも閲覧が可能な状態であった
  • カルテの保管棚に施錠がされていなかった
  • 社員が私用のスマホを使ってカルテを撮影しデータ共有するなどが日常的にあった
  • 就業規則に秘密管理の規程が無かった

つまり、「秘密情報(顧客情報)を秘密として管理していなかったので秘密情報とは言えない」ということです。

いかがでしょうか。みなさんの会社ではもちろんしっかりと管理されているとは思いますが、もし上記のような管理をされていると万が一の場合は、この裁判のように判断をされる危険性があります。また、情報漏えいやトラブルの原因にもなりますし社員のモラルダウンにもつながります。

今一度、見直してみてはいかがでしょうか。

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【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

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【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

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