国際交渉人が強める懸念。バクダディの『死』で混乱増す中東情勢

 

今回のバグダディ事件と、シリアとトルコの“表向き”のいざこざの影には、アメリカとロシアの影が色濃く伺えます。

まず、アメリカですが、トランプ大統領からの指示でシリア北東部から確かに米軍は撤退しましたが、実際にはシリアからは撤退していません。すでに世界1位の原油・天然ガス生産国になっているアメリカですので、中東地域における原油・天然ガスへの経済的な野心は以前に比べて低いものの、シリア国内の主要油田施設の周りは、いまだにがっちりと米軍で固めています。

これは、シリア領内で濃度を増していくロシアのプレゼンスへの警戒と、イラン情勢におけるトルコ・シリア・イラン・ロシアのカルテットへの警戒が背景にあるようです。今回のバグダディ氏殺害のオペレーションに携わった特殊部隊はイラクからヘリコプター8機でイドリブに向かっていることからも、まだまだ地域における軍事的なプレゼンスとプレッシャーは保持しています。

次にロシアですが、今回のバグダディ氏殺害に関する件でも、またトルコとシリアの軍事的な衝突の件でも、非常に不思議な対応をしています。バグダディ氏殺害については、先述のように、アメリカ軍の特殊部隊がイラクから8機のヘリコプターでイドリブに侵入しましたが、そのヘリコプターが飛行したルートは、実際はロシア軍の支配地域の上空になるにもかかわらず、ロシアは一切軍事的な反応をしていません。

それには、(バグダディ氏殺害については伝えられていなかったが)支配地域の通過については、事前にアメリカから通知されていたという理由があるようですが、非常にデリケートなシリア上空の自国の支配地域の上をアメリカの特殊部隊が移動するというのは、通常であれば、看過していないはずです。何があったのかは謎ですが、非常に不可解な事態です。

そして、シリアとトルコの衝突については、先述のように、ロシアの両国への影響力の低下ではないかと訝る声がありますが、それどころか、中東地域へのロシアのプレゼンスの拡大は加速しています。シリアのアサド大統領の後ろ盾として君臨し、シリア内戦におけるアサド政権軍の勝利をサポートしたことから、シリアは確実に今後、ロシアの中東進出の拠点の一つとなります。

そしてトルコについても、アメリカとのカウンターバランスとして、S400を2020年にも配備し、アメリカがトルコを制裁対象にした際にも、あからさまにトルコを支援しています。そして、イランへの肩入れにより、中東におけるロシア親派を増やしています

print
いま読まれてます

  • この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け