台湾総統選挙で圧勝した蔡英文氏が英BBCのインタビューで、「台湾はすでに独立国家」と発したことなどが「爆弾発言」として物議を呼んでいるようです。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、「一国二制度」巡り緊張する中台関係を解説した上で、今回のタイミングで蔡氏が中国を刺激するかのような発言に踏み切った理由を考察しています。
蔡英文台湾総統の超爆弾発言
1月11日の総統選で見事勝利した蔡英文さん。BBCとのインタビューで、【超爆弾発言】をしました。BBC NEWS JAPAN 1月15日から。
蔡総統、「中国は台湾を尊重すべき」 BBC単独会見
中国は「現実を直視」して台湾を「尊重」する必要があると、BBCの単独インタビューで述べた。蔡総統は11日に投開票が行われた総統選挙で、中国政府からの高まる脅威を重点においた選挙戦を展開。地すべり的勝利を収め、再選を果たした。中国共産党は長年、台湾での主権を主張。必要であれば武力行使をする権限があるとしている。
「中国共産党は長年、台湾での主権を主張。必要であれば武力行使をする権限があるとしている」
習近平は去年の年始、「武力を使っても統一する!」と宣言した。それで、台湾の人たちが、反中になってしまった。その後、香港デモが起こり、「中国のいう一国二制度はウソだ!」ということがバレてしまった。蔡英文さんは、まさに「習近平のおかげ」で勝利できたのです。彼女は、台湾の未来について、中国と「交渉の余地はない!」と断言します。
蔡総統は再選後初となるBBCのインタビューに応じ、自治権を有する台湾の主権をめぐり、交渉の可能性がないことは疑いの余地がないと強調した。
そして、ここから【超爆弾発言】がつづきます。
「我々には、自分たちが独立主権国家だと宣言する必要性はない。(中略)我々はすでに独立主権国家あり、我々はこの国を中華民国、台湾と呼んでいる」
(同上)
台湾はすでに独立主権国家だから、独立宣言の必要はないそうです。これって、【事実上の独立宣言】ではないですか?
なぜこれが、【超爆弾発言】なのでしょうか?
1945年、第2次大戦が終わった。中国では、国民党と共産党の内戦が、再びはじまりました。1949年、共産党は勝利し、中華人民共和国を建国します。負けた国民党は、台湾に逃げました。その後、中華人民共和国は影響力を増し、台湾(中華民国)は追い詰められていきます。
1970年代初め、アメリカのニクソンが、「台湾を捨て、中華人民共和国と和解しよう」と決断すると、台湾の地位はますます悪化します。日本の田中角栄も、「アメリカに負けじ!」と台湾を捨て、さっさと中華人民共和国と国交を樹立しました。
台湾は1971年まで、国連安保理の常任理事国でもあった。しかしこの年、中華人民共和国が、台湾にかわって、常任理事国になります。台湾は、国連を脱退。
台湾と断交し、中華人民共和国と国交を結ぶ。アメリカの決断は、世界的トレンドになりました。それで、現在台湾を国家承認している国は、わずか15か国。その他の大多数の国々は、台湾のことを何だと思っているのでしょうか?そう、「台湾は、中華人民共和国の一部だ」と認識しているのです。
では、当の台湾自体は、自分自身についてどう考えているのでしょうか?当初は、「中華民国が、全中国で唯一の正統国家である」という認識でした。つまり、「中華人民共和国は非合法政権だ」と。ところが、全世界が中華人民共和国と国交を結び、台湾と断交するにおよび、こういう主張はつづけられなくなった。では、現在国民党の主張はどうなっているでしょうか?
総統選の対立候補だった最大野党・国民党の韓国瑜氏(62)は、この「一国二制度」を支持している。国民党のルーツは、中国の国共内戦で敗北した中国国民党。彼らは台湾へと逃れた後も、台湾を中国大陸の一部だと捉えていた。近年、「一国二制度」を支持する台湾人は、この構想は有用な歩み寄りになっていると主張している。
(同上)
現在の国民党は、「一国二制度」を支持している。つまり、「台湾は中華人民共和国の一部だが、制度が違う」と。