遅すぎた武漢封鎖。新型肺炎パンデミックで死の淵に立つ世界経済

 

資本主義の修正

ダボス会議でも、資本主義の再定義が主題になった。資本主義体制の問題点が議論になっている。景気循環が中央銀行の金融緩和と資金放出で止まって、継続的に株価は上昇しているし、景気が上昇しているという。

トランプ米大統領は、ダボス会議の冒頭で演説し、米国経済の力強さで、失業率が半世紀ぶりの低水準に下がったことや対米投資の増加など、自身の大統領就任からの経済面での成果を列挙し、「米国は、世界がかつて見たことがないほどの好景気のさなかにあると誇りを持って宣言する」とした。会場に居た銀行経営者に対しても「私が、銀行の業績を上げているので、感謝してもよいのでないか」と発言している。

しかし、グッゲンハイム・パートナーズのスコット・マイナードCIOは、中央銀行の緩和的な金融政策による資産価格の膨張を「ポンジスキーム(ねずみ講)」になぞらえ、いずれ崩壊は避けられないと述べたし、クリスタリナ・ゲオルギエバIMF専務理事も、世界大恐慌の再来を警告した。

資本主義の問題点は、経営者は株主が期待する株価を上げることであり、その期待に経営者が引きずられることで、資本主義がうまくいっているときは、社会全体に需要があり、拡大再生産が可能であり、売上高が上がり利益が増え、株価は上がることになる。

しかし、社会全体に需要がなく、生産拡大できないと売上高を増やせないので、利益が上げるために従業員の給与を下げるとか、1株当たりの利益を上げようと、自社株買いをすることになる。

金利が安いので、企業は株価を上げるために、社債を発行して資金を作り、自社株を買い、1株当たりの利益を上げて、株価を上げている。このため、中央銀行が金利を上げることは、企業経営者にとっては、死活問題となる。借り換えの社債の金利が上がり、金利分のコストが上昇して、利益が下がることになるからである。ゼロ金利であれば、無限回、借り換え社債を発行すればよく、コストなしで1株当たりの利益を上げることができる。

中央銀行も企業経営者の要望を無視できずに、金利を下げているし、資金を放出して、資産価値を上げている。金利が安いので、米企業の負債比率が史上最高値まで来ている。これは正常ではないと皆が思っている。

そのために、経営者に従業員や社会、環境にも配慮した「ステークホルダー(利害関係者)資本主義」を求める声が高まっている。しかし、これを推進する制度もないし、株主の期待を裏切ると経営者は首になる。このため、このような資本主義を変えるには、仕組みを変えるしかないようだ。

ステークホルダー資本主義は本来、買い手、売り手、世間の満足を目指す「三方よし」と通じ、日本的経営となじみやすい。だがダボスで議論に積極的に参加する日本の経営者は少なく、日本の影は薄いが、そのようなシステム変更ができるのは、日本しかないように感じる。

資本主義の仕組みを変えて、修正資本主義にして、中国主導の「国家資本主義」に抗する新たな軸を来る必要になっているのだ。

逆に、中国は「国家資本主義」とも呼ばれる政府主導型で長期の安定成長を狙うようである。対峙する米欧は短期志向を脱し、資本主義に立脚した持続可能な安定モデルが求められているようである。

しかし、欧米では、どう資本主義の仕組みを変えてよいのか、よくわからないようだ。世界がやっと、中央銀行での金利と株価の統制という日本のモデルに追いついたことで、日本は次の資本主義修正モデルを作る必要になっている。

企業の上には国があるので、国が企業を緩く統制することである。法律で縛ることではなく、規範で縛り、規範違反が大きい時だけ、国が株主権利を行使するようなモデルになる見ている。

小さい企業が規範違反でもお咎めなしで、大企業のみお咎めありというモデルを作るには、法律での違反ではなく、規範で縛るしかない。このためには、中央銀行・政府が大企業の株主になっている必要があり、企業経営者に、企業価値は株価の上昇だけではないということを知らしめる必要がある。

日銀は、すでに大中企業では大株主になっている。日本は世界に先駆けて、資本主義修正モデルを作れる位置にいる。

その意味からも、日本の時代が来ている。バブル崩壊後、いつも、日本は、衰退途上国と言う資本主義の問題点と向き合う位置で世界に先駆けている。この40年、良いか悪いかを別にして、苦労して日本モデルを構築してきたのである。

もう1つ、規範を初等教育で教え始めて、日本人全員が、社会や他人への迷惑を意識する必要がある。高等教育にも安岡正篤氏などの日本的な論語思想が重要である。企業経営者としてのリーダーが持つべき規範をしっかりしないと、社員や国民に示しがつかない。このためには古典的な論語の教育が必要になっている。

予約の無断キャンセルや宅配での現金引換えでのキャンセルなど、日本人の規範意識が戦後の権利優先教育で弱くなっているように感じる。これは社会的コストを上げてしまうので、早急に是正することである。

さあ、どうなりますか?

image by: Shutterstock.com

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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