遠ざかる米テスラの背中。トヨタが犯した「決定的な戦略ミス」

 

そこで早速、そのうちの一台を試乗したのですが、乗り心地はごく普通の乗用車だし、加速もブレーキもテスラと比べると、ガソリン車と大きく違いはありません。アクセルを踏み込んでも、テスラのようにいきなり加速はしないし、ブレーキを離した時に再生ブレーキが作動することもありません。

この辺りは、電気自動車は自在に設定出来るので、アウディはあえてガソリン車に近い設定にしてあるのだと思います。テスラに慣れている私は、少し不満だったのですが、妻はそこが気に入ったようです。

高速道路に入ると早速、オート・クルーズを試します。「e-tronには、アダプティブ・クルージング機能があるはずだから」とスピードを上げたところ、前の車が近づいても減速してくれません。Katelynが慌てて「アダプティブ・クルージングの設定はデフォルトではオフです」と付け加えます。こんな大事な機能は、デフォルトでオンじゃなければダメだと思いましたが、黙っていました。

試乗後、妻の感想を聞くと、結構気に入ったようなので、値段交渉に入ります。本当は、Model Yを待ちたいところですが、テスラ以外の電気自動車を運転することは、色々と勉強にもなるし、メルマガのネタにもなります。

そこで、在庫の中から必要なオプションが付いた車体の値段を出してもらうと、定価から1,600ドルしか引いていません。他の車種がどのくらいの値引きで売られているかを頭に入れておいた私は、「他の車種は5,000ドル引いてるよね」と厳しく指摘すると、Katelynは「上司に相談して来ます」と席を離れます(これは、値引き交渉中のセールスマンの常套文句です)。

しばらくすると、戻って来て「OKが出ました」というので、実際の購入手続きに入った時に、もう一度数字を確認すると、4,000ドル引きにしかなっていません。ムッとして「5,000ドル引きだと言ったじゃないか」と指摘すると「ごめんなさい」と数字を書き直して来たのですが、今度は「5,600引き」になっています。アメリカ人は、暗算が不得意なので、こんなことは結構あります。

私が、書類にサインをしようとすると、妻が横から「え、今日買うの?」と言います。私が「気に入ったって言ったじゃない」と尋ねると、「一晩ぐらい考えてからにするのかと思った」と彼女は言います。相談して、結局その場で買うことにしたのですが、気分良く値引き交渉が出来たのが、一番の理由だったりします。

その後すぐに、リース切れのレクサスをディーラーに返却に行ったのですが、その時に妻が呟いた「レクサスが電気自動車を出してくれていたら、こっちを選んだのに」という言葉が、強く印象に残りました。

私は、10年以上に渡ってトヨタ自動車と仕事をして来たし、経営陣も含めて、親しく付き合って来ました。そんな関係があったからこそ、私はプリウスを運転し、妻はレクサスを運転して来ました。2年ほど前にプリウスからModel Xに乗り換えた時は、少し良心の呵責を感じていたぐらいです。

しかし、今回のレクサスからアウディe-tronへの乗り換えに関しては、完全にトヨタの戦略ミスだと思います。既に、電気自動車はアーリー・アダプター向けのニッチな存在から、アーリー・マジョリティが欲するものに変わりつつあります(転機は2019年だったと思います)。

2020年の今になって、これだけ地球温暖化が注目を浴び、各国の政府が、電気自動車へのシフトを宣言したにも関わらず、富裕層向けのレクサス・ブランドで、電気自動車が提供出来ていないのは大失敗です。

特に重要なのは、主婦層に人気のミニSUVで、ここが2020年の主戦場になることは目に見えています。3月には出荷が始まるテスラのModel Yが市場を席巻することは、ほぼ確実ですが、少なくともe-tronを提供しているアウディは高く評価して良いと思います。

【追記】e-tronの評価は、もう少し運転してから来週号にでも書く予定です。

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