遠ざかる米テスラの背中。トヨタが犯した「決定的な戦略ミス」

 

テスラの四半期決算

テスラの決算発表がありました。アナリストの予想を上回る売り上げと利益だったため、株価が急騰しましたが、私から見ると、それほど驚くべき数字ではありませんでした。最も重要な数字は、Free Cash Flowで、これが$1 billion以上あったことは、とても良い兆候です。

テスラは、まだ成長中の企業なので、生産ラインへの莫大な設備投資を必要としています。そのために必須なのが、Cash Flowで、そこさえしっかりと管理出来れば、まだまだ成長の余地がある会社です。今回の発表で、現金にかなりの余裕があることが分かったのは、好材料です。

アナリスト向けのカンファレンス・コールで、イーロン・マスクは、上海の工場の建設費は借金で賄うことが出来たのが助かった、と発言しましたが、同じようなことがベルリン工場でも可能であれば、さらに積極的な投資が可能になります。借金を嫌う経営者もいますが、テスラのように、ニーズが十分にある会社の場合、借金をして設備投資に回すのが、最も賢い財務戦略です。

カンファレンス・コールでイーロン・マスクが語った、もう一つの重要な点は、粗利益率(18.8%)に関するコメントです。イーロンは「粗利益率を上げるには、自動運転が鍵を握る」と何気なく触れましたが、まさにこれがテスラをテスラとしている点です。

テスラは、現在、全ての車種に、自動運転に必要なカメラ・センサー・自社製のAIチップを搭載していますが、自動運転機能そのものは、ソフトウェア・オプションとして提供しています。テスラ自身は、このオプションの装着率を公開していませんが、たぶん50%を切っていると思います。この装着率の低さは、自動運転機能の開発が完了していないことを考えれば当然で、それを待って購入するのが賢い選択肢です(私は、勢いで最初から装着しました)。

現在の状況をまとめると、

  • テスラは、全ての車種に自動運転に必要なハードウェアを付けて提供している
  • 自動運転機能はソフトウェア・オプションとして提供している
  • 自動運転オプションの装着率はあまり高くない
  • 現在の粗利益率(18.8%)は、トヨタ自動車の粗利益率(18.6%)と同等
  • 自動運転機能は間もなくFeature Completeとなる
  • 自動運転オプションの粗利益率は100%

となります。つまり、自動運転オプションの装着率が上がると、テスラの粗利益率は上昇するのです。

こんなことが出来るのは、テスラが自社製のAIチップを作っているからです。自動運転に欠かせないAIチップやGPUは、市場で購入するととても高価(Nvidia製のGPUだと数千ドル)ですが、そのコストの大半は、研究開発コストであり、製造コストは安いのです。

テスラのAIチップに関しては、既に研究開発費は計上済みなので、ハードウェア・コストそのものは微々たるものなので、全車に搭載することが可能なのです。

他の自動車メーカーの場合、Nvidiaなどから高価なチップを購入する必要があるため、全車に搭載することは不可能で、ハードウェア・オプションとして提供するしかありません。結果として、自動運転オプションを選ぶ人は少ないし、そのオプションの粗利益率も普通の数字(18%程度)になってしまいます。

実は、この問題を完璧にではありませんがそれなりに解決する方法があります。良い頭の体操になると思うので、考えてみてください。答えは来週のメルマガに書きます。

image by: Arcansel / Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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