新しいビジネスモデルの構築、技術のイノベーション等々、革新的な仕事をやってのけてきた先人たちの「創造の源」はどこにあるのでしょう。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、新しい発想やひらめきが生まれる瞬間と源泉について、稲盛和夫・京セラ名誉会長が綴ったコラムを紹介しています。
「創造」の瞬間はいつ訪れるのか?
京セラやKDDIを、日本を代表する大企業に育て上げ、不可能と言われたJAL再生を成し遂げた稲盛和夫さん。
本日は『致知』2006年4月号に掲載され、当時大きな反響を呼んだ「知恵の蔵をひらく」という巻頭コラムの記事をご紹介します。
「知恵の蔵をひらく」 稲盛和夫(京セラ名誉会長)
私は技術者として、また経営者として、長く「ものづくり」に携わる中で、偉大な存在を実感し、敬虔な思いを新たにすることが少なくありませんでした。
大きな叡知に触れた思いがして、それに導かれるように、様々な新製品開発に成功し、事業を成長発展させ、さらには充実した人生を歩んできたように思うのです。
このことを、私は次のように考えています。
それは偶然でもなければ、私の才能がもたらした必然でもない。
この宇宙のどこかに、「知恵の蔵(真理の蔵)」ともいうべき場所があって、私は自分でも気がつかないうちに、その蔵に蓄えられた「叡知」を、新しい発想やひらめきとして、そのつど引き出してきた。
汲めども尽きない「叡知の井戸」、それは宇宙、または神が蔵している普遍の真理のようなもので、その叡知を授けられたことで、人類は技術を進歩させ、文明を発達させることができた。
私自身もまた、必死になって研究に打ち込んでいる時に、その叡知の一端に触れることで、画期的な新材料や新製品を世に送り出すことができた――そのように思えてならないのです。
私は「京都賞」の授賞式のときなどに、世界の知性ともいうべき、各分野を代表する研究者と接することがあります。
そのとき、彼らが一様に、画期的な発明発見に至るプロセスで、創造的なひらめき(インスピレーション)を、あたかも神の啓示のごとく受けた瞬間があることを知り、驚くのです。
彼らが言うには、「創造」の瞬間とは、人知れず努力を重ねている研究生活のさなかに、ふとした休息をとった瞬間であったり、ときには就寝時の夢の中であったりするそうです。
そのようなときに、「知恵の蔵」の扉がひらき、ヒントが与えられるというのです。
エジソンが電気通信の分野で、画期的な発明発見を続けることができたのも、まさに人並み外れた凄まじい研鑽を重ねた結果、「知恵の蔵」から人より多くインスピレーションを授けられたということではなかったでしょうか。
人類に新しい地平をひらいた偉大な先人たちの功績を顧みるとき、彼らは「知恵の蔵」からもたらされた叡知を創造力の源として、神業のごとき高度な技術を我がものとして、文明を発展させてきたのだと、私には思えてならないのです。
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