【書評】フォーサイスが伝える日本人のイメージと違うBBCの姿

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『ジャッカルの日』で華々しい小説家デビューを飾ったフレデリック・フォーサイスが、小説のような人生を綴った自伝『アウトサイダー 陰謀の中の人生』をお勧めするのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さん。ナイジェリア内戦を取材した著者が不信感を募らせることになったBBCの対応は、小川さんがイメージしていたBBC像を覆すものだったようです。

フレデリック・フォーサイスの自伝

デスクワークの合間に、イギリスの作家フレデリック・フォーサイスの自伝『アウトサイダー 陰謀の中の人生』(角川文庫)を読み終えました。フランスのド・ゴール大統領暗殺未遂事件を小説化した『ジャッカルの日』でデビューした世界的なベストセラー作家です。

私も1度、湾岸戦争を扱った『神の拳』(1994年、角川書店)のキャンペーンで来日したとき、東京・銀座のホテル西洋で会ったことがあります。雑誌『プレジデント』の対談でした。

フォーサイスは優れたジャーナリストですが、同時に自伝『アウトサイダー』の帯に謳ってあるように「MI6の協力者」という横顔も持っていました。アウトサイダーにしてインサイダーと書いているとおりです。ジャーナリストとしての経験に加え、情報活動にも関わったことがあるとなれば、それを踏まえた小説が面白くないわけはないでしょう。

そこで自伝『アウトサイダー』ですが、お堅い話からいくと、ネルソン・マンデラが政権に復帰する直前の段階で、南アフリカが6個保有していた原爆を放棄することについて、じかに南アフリカのデ・クラーク大統領の盟友ピック・ボタから聞き出したエピソードは、歴史に残る成果かも知れません。

このときは、既にフォーサイスは世界的に有名な作家になっており、その関係でこの南アフリカのピック・ボタとも親交があったのですが、英国秘密情報部(SIS、通称MI6)の依頼でピック・ボタの休暇先に出かけ、一緒にハンティングをしたあと狩猟ロッジの中で、それも就寝前に聞き出したのです。これに対して、ピック・ボタも「フレディー、国へ帰ってきみをよこした人たちにいうといい。われわれはそれを廃棄するつもりだとね」と大人の返し方をしています。

いまひとつはジャーナリズムについて。フォーサイスはイギリスの地方紙からロイター通信を経てBBC(英国放送協会)に移り、ナイジェリアの東部州ビアフラの内戦を取材します。当時、イギリス政府はビアフラの反政府勢力を弾圧していたナイジェリア政府を支持し、武器・弾薬まで供給していました。

しかし、イギリス政府の方針は現地の事情を把握しようともしない高等弁務官の報告に基づいており、フォーサイスはBBC本社にその旨を報告し続けます。これに対して、政府の意向でしか動かないBBC本社はフォーサイスの報告を無視し、そういう不信感に対してフォーサイスは辞表を叩きつけます。

フォーサイスの自伝『アウトサイダー』に出てくるBBCは、私が抱いていたイメージを打ち砕くものでした。NHKの腰の引けた報道や不祥事が出るたびに、「同じ国営放送といってもBBCは違う。政府と対立してでもニュースを放送している」といった声が聞こえたものですが、これは多くの日本のジャーナリストが抱いているBBC像が、まったく調査不足の代物だったことを物語ってもいるのです。

ビアフラの現地で、フォーサイスは多くの新聞が情報源に触れない無責任な記事を報じていることも厳しく批判しています。情報源の身元が割れないようにする一方、それが確かなニュースソースかどうかは踏まえなければならないというのがジャーナリズムの鉄則ですが、欧米の新聞でもそれがおろそかになっているという怒りです。これは1960年代末のことで、日本の新聞・テレビの欧米メディアへの崇拝が普通だった頃ですが、それだけに日本のメディアの水準について、色々と教えられます。

フォーサイスがフリーでは食っていけなくて、処女作『ジャッカルの日』を出版社に持ち込んでは門前払いに近い扱いを受けるくだりも、身につまされて読みました。とにかく、面白い自伝です。テレワークの合間に、あるいは、がらんとしたオフィスで、眺めてみてはいかがでしょう。(小川和久)

image by: Anton Garin / shutterstock

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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