高評価のクオモNY州知事、ブレる安倍首相。何が欠けているのか?

reizei20200421
 

新型コロナウイルスが猛威を振るう中にあって、冷静さとブレのない対策が評価され支持率を上げているクオモNY州知事。一方で、後手後手とも思われるその対策が批判的に受け取られ、支持率が急落した安倍総理。その差はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住の作家・冷泉彰彦さんが、「リスクコミュニケーション(リスコミ)」をキーワードに日米の違いをあぶり出すとともに、「安倍首相は新型コロナ対策について、100%理解しているとは思えない」と記しています。

新型コロナウィルス問題の論点 専門家頼みのリスコミを疑う

コロナ危機の進行に伴って、リスコミ(リスクコミュニケーション)という言葉に接する機会が増えてきました。色々な定義ができると思いますが、広い意味では、リスクが増大している時期、つまり危機が進行している中で社会の中で飛び交うコミュニケーションを、どうやったら上手く進めていくかという問題意識であると思います。

例えば、Wikipediaの日本語バージョンでは、どなたかが書いた「社会を取り巻くリスクに関する正確な情報を、行政、専門家、企業、市民などのステークホルダーである関係主体間で共有し、相互に意思疎通を図ることをいう。合意形成のひとつ」というキレイな定義付けがされていますが、問題はそれをどうやったら上手くいくかということだと思います。

まずこの間、アメリカでも日本でも見られる現象として、「正しいことは専門家に語らせる」というアプローチがあります。

例えばアメリカの場合は、大統領の役割は「コロナなんて大したことない(3月上旬まで)」「いや、大変みたいだから俺が仕切ろう(4月上旬まで)」「もう我慢出来ないので経済オープンしよう(4月中旬以降)」という大雑把で、極めていい加減な仕切りを続けています。

さすがに一番厳しい時期はケンカを売るのは止めていましたが、厳しい姿勢を取るのに少し飽きてくると、どうしても危機意識の少ない中西部の支持者の言い方とシンクロしてくるらしく「俺が人工呼吸器を手配したのにお礼の言葉が少ねえじゃないか」とか「どうせ各州のマスクとか人工呼吸器の要求数なんて盛ってるに違えねえ」などと言いたい放題になっています。

危機の深い州では、特に後者の方については「命の問題に関してあまりに不謹慎」という反応になるわけです。当然すぎるほど当然ですが、ある種の宿命として、コロナ危機の深刻な州は「人口密度が高く、国際社会と密接」という特徴があるために、民主党支持(リベラル)であるわけです。そうなると、この種のケンカというのは、以前からある「左右対立」だということになり、感染拡大への危機感の薄い保守州は「大統領のほうが正しい」と思いこんでしまいます。

先週全米で騒動となった「社会をオープンしろデモ」の大盛り上がりについては、トランプが背後で煽っていたのですが、どう考えても悪質な行為ではあるわけですが、憎いリベラルの言うことを聞いてこれ以上ガマンをするのはイヤ、という左右対立から言われてしまうと、議論は難しくなります。

その点で、結局「専門家」が登場しないとダメということになります。

アメリカの場合は、ホワイトハウスの専門家チームというのがあって、3名が主要な「顔」としてメディアに出てきます。それぞれにキャラが立っています。

■アンソニー・ファウチ博士

感染症の最高権威ということになっています。絶対に主張を曲げません。ですから、大統領の言うこととしばしばズレが発生します。大統領がファウチ博士をクビにするとか、ファウチ博士の方で怒って辞任するという噂が出たことは数え切れないほどあります。ですが、ファウチ博士は絶対に大統領の売ってくるケンカは買いません。大統領批判もしません。ですが、正しいことは曲げない、そうしたキャラで押し通しています。その結果として国民の中でも博士の悪口を言う人はいません。

■サマンサ・バークス博士

女性専門家としてファウチ博士とコンビを組んでいます。非常に雄弁です。論旨も明快。ファウチ博士とのズレはありません。同じように、絶対に大統領批判はしません。ファウチ博士と異なるのは、医学面以外で大統領の姿勢に「お付き合い」をするということです。良くも悪くも政治的センスがあります。例えば中国での初動への批判とか、ウィルス人為説などでは、科学者として許されるギリギリの範囲で大統領への「迎合」という名人芸を展開することがあります。ファウチ博士を含む専門家チームを守るためなのだと思います。

■ジェローム・アダムス博士

軍医として閣僚メンバーである保健長官(Surgeon General of the United States)のポストを務めています。トランプ政権では珍しいアフリカ系です。トランプ派と目されていましたが、危機が進行するにつれてファウチ博士のチーム内で、ズレやブレなく活動するようになってきました。それとともに、東部など危機の進行している州では人気が上昇していますが、反対に中西部では不人気になったのか、表舞台には出たり出なかったりです。

とにかく、ファウチ博士が最高権威で、バークス、アダムスの両博士は、それを補佐しながらファウチ博士をトランプとトランプ派の無茶から「防衛する」ように動いているようです。

結果的に、この間に大統領の支持率はアップしましたが、その支持というのはファウチ体制への支持だという解説もあるぐらいです。大統領は右派的な、あるいは命よりカネ的な放言大魔王として「野放し」になっている分、ファウチ体制がしっかりと「リスコミ」の重責を担っているという奇怪な構造になっています。

print
いま読まれてます

  • 高評価のクオモNY州知事、ブレる安倍首相。何が欠けているのか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け