ここまで迷走のナゼ。安倍首相が現金給付案を二転三転させた理由

 

現金一律給付案は、野党と公明党のみならず、自民党内部からも出ており、当初、安倍首相自身も、その気だったといわれる。「一律20万円ならインパクトがあるな」とかなんとか、周囲に語っていたそうなのだ。

それなのになぜ「30万円」案に傾いたのか。要するに、一律10万円を全国民に配るとカネがかかりすぎると踏んだ財務省が反対し、“ご説明”で洗脳された財政再建派の族議員を取り込んで、もとはといえば「一律給付」派だった岸田文雄自民党政調会長をも動かしたということであろう。

「30万円」案なら対象世帯は全体の2割ほどで、4兆円ですむが、全国民に一律10万円だと、12兆円以上もかかってしまうのだ。

世間受けを気にする側近と財務省の意向との間で安倍首相に迷いが生まれたのであろう。政調会長である岸田氏にゲタを預け、自民党案を取りまとめるよう依頼した。

そして、4月3日、岸田氏が持ち込んだ減収世帯への30万円給付案を安倍首相も了承した。まさか「10万」より「30万」のほうが見栄えがいいなどという単細胞の観測に乗ったわけではあるまいが、そこはやはり予算を組む財務省の論理が勝ったに違いない。とりわけ安倍首相に対しては、森友問題などでの“貸し”が財務省にはある。

岸田氏は二階俊博幹事長に事前に相談することなく、4月6日、自民党本部における会議で30万円給付案への了承を求めた。会議では、一律給付を主張する声も多々あったらしいが、すでに安倍首相と合意していることでもあり、岸田氏はいつになく強い姿勢で押し切ったようだ。

朝日新聞(4月18日付朝刊)によると、二階幹事長は「普通は協力を求めるもんだろう」とたいそうな怒りようだったらしく、一律給付を主張する党内世論も強かったことから4月14日、寝癖のついた後ろ髪のままテレビカメラの前に姿を現して、こうぶち上げた。

「経済対策では一律10万円の現金給付を求める等の切実な声があります…できることは速やかに実行に移すよう政府に強力に申し入れたい」

実はこの発言の直前、自民、公明両党の幹事長らが会談したそうである。そのときのやりとりが、朝日の記事にこう書かれている。

公明党の斎藤鉄夫幹事長が「30万円は本当に評判が悪い」と水を向けると、二階氏は「まったくだ。党の言うことを聞かないから悪いんだ」と同調。

このあと、鈍重に見える二階幹事長がいきなり動き出したのを見て、創価学会から突き上げを食らっていた公明党があわててスタートダッシュした。

山口那津男代表は15日、官邸に駆けつけた。安倍総理大臣に会ったあとの、ぶら下がり会見。

「1人当たり10万円、所得制限をつけないで国民に給付する…これを総理に決断を促した。総理は『方向性をもって検討する』とおっしゃった」

決断を促したなどと、鋭い眼光で言うあたり、ちょっと芝居がかっているが、二階幹事長に先を越されそうになって、なんとか自分たちの手柄にしたいとはやった気持ちも、わからぬではない。連立離脱までちらつかせるほどの迫力で安倍首相に立ち向かったという。

翌16日、自民、公明両党の計4時間にわたる幹部会議で、補正予算の組み替えを求めてまくしたてる山口氏らに岸田氏は激しく抵抗した。岸田氏と日ごろからソリが合わないといわれる二階氏は、いったん言い出した以上、後には引かない。会議の後、「平行線だった」と記者団に語った岸田氏の顔に苦渋の色がにじんだ。

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