日本社会を脆弱にした経済優先の政策。池田教授が説くムダの効用

 

ムダこそ安全装置。効率化や大繁栄は絶滅と紙一重

最近話題になったミステリークレイフィッシュというザリガニは、飼育下で誕生した1匹のメスを祖先に持ち、染色体が3nで単為生殖をすることが分かっている。マダガスカル島では大増殖をして在来のザリガニの生存を脅かしているらしい。すべてクローンで、繁殖効率が極めてよく、ニッチが似た他のザリガニたちは勝てないのだろう。無駄を省いて儲け第一主義に徹した企業みたいなやつだな。

しかし、ひょんなことで絶滅しそうな気がするね。単為生殖が繁殖効率に優れ、他の種を圧倒するならば、どうしてほとんどの種は有性生殖をするのだろう。それはタイムスパンを多少長くとると、単為生殖をして遺伝的多様性が全くない生物種は、環境が変化したときに絶滅するからだと思われる。

以前、「飛蝗について」(生物学もの知り帖 第114回)でも書いたけれども、1875年の大発生時に12兆5千億匹という天文学的な個体数を記録したロッキートビバッタは僅か27年後の、1902年までには完全に絶滅してしまった。大繁栄と絶滅は紙一重なのである。

多くの野生生物の個体群には、一見種の存続の役に立たないように見える個体が結構いる。多くの昆虫類は膨大な数の卵を産むが、ほとんどは親になれず、繁殖に関与する前に死んでしまう。無駄を省いて卵数を絞ると、有事の時に絶滅してしまうだろう。「働かないアリにも意義がある」(長谷川英祐著)と題する本がある。わき目も振らずに働いているように見えるアリやハチの7割は余り働かず、1割は一生働かないという。

無駄の極みみたいだけれど、この働かないアリは、有事のセキュリティ装置として、巣の存続に役に立っているに違いない、という話だ。経済効率を優先して、ベッド数を減らせば、通常時の効率は確かによくなるだろうが、今回のような有事には、対応できないのだ。救急医療は他の産業と違って、人の命がかかっている。経済効率第一主義を医療に適用するのは間違っている。

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