日本社会を脆弱にした経済優先の政策。池田教授が説くムダの効用

 

政府が作ってきた日本社会の脆弱さが明らかに

今回のコロナ騒ぎでもう一つはっきりしたことは、外国からの人や物の移動がちょっと滞っただけで、輸入に頼っていた物が不足して、インバウンド頼みの観光産業がダウンしてしまうことだ。グローバル・キャピタリズムの論理に従えば、同じものならば、一番安い生産コストで作られた製品が市場を制するということになる。

日本で作られたコムギやトウモロコシや牛肉の生産コストは、アメリカ産のものに比べてはるかに高く、関税をかけなければ、日本産のものは競争に敗れるに違いない。尤も、アメリカ産の作物には、ネオニコチノイドやグリホサートといった農薬が沢山残留しており、肉にはホルモン剤や抗生物質などが入っている。富裕層は買わないだろうが、圧倒的多数の一般国民は安い食品を買わざるを得ない。

問題はこういうことを続けていると、日本の農業は衰退して、食べ物の供給をもっぱら外国に依存することになることだ。軍備を増強しても、軍需産業の儲けにはつながっても、真の意味の国防には役に立たない。戦闘機は食えないし、コロナウイルスを退治することもできない。そもそも戦争になる前に、外国からの流通はあらかたストップするであろうから、この時点で、多くの国民は飢えに直面して、戦争どころではなくなる。

今考えなくてはならないのは、多少効率が悪くても食料自給率を上げるシステムを崩さない(作る)ことだ。食料は国の生命線だ。国の生命線をアメリカに握られれば、無理難題でもアメリカの言うことを聞かざるを得なくなる。アメリカの属国化政策を押し進めた安倍政権は、売国奴と言っても過言ではない。経済効率第一主義は有事のリスクを増大するのは、ここでも真である。

もう一つの問題は、日本はエネルギー自給率がものすごく低いことだ。これについては、既にあちこちで述べているので、詳細はここでは述べないが、重要なことは、急に自給率を上げる方途は今のところないことだ。とりあえずは、エネルギーを売ってもらえるように、エネルギー供給国と友好関係を結ぶほかはないだろう。

日本政府は、小泉・竹中時代から、大企業の短期的な利益を極大化するために、正規雇用を減らし、都合に応じて雇用したり、馘首したりできる非正規労働者を増やしてきた。今回のような騒ぎが起きると首を切られた蓄えのない非正規労働者の数が増えて、これは社会不安の増大要因になる。

さらに日本人の時給はまだ高いといって、大量の外国人の単純労働者を受け入れた結果、失業した外国人労働者が溢れたら、大変厄介な事態になる。これらもすべて、短期的な利益の追求のために、システムを今現在の状況に最適化した結果である。こういうシステムは、社会的な安定性がなく、状況が変わった途端にクラッシュしてしまう。

インバウンドで食わざるを得ないのも、一般の日本人の給与水準が落ちて、遊びに行くお金が無くなってきたからだ。多くの日本人が、遊びに行ってお金を落とす余裕があれば、インバウンドに頼らなくとも、観光は壊滅しない。国に金がないのに、そんな夢のような話は非現実的だという人が多いだろうが、そう思わされているのは現在のグローバル・キャピタリズムのシステムを当然だと思うからである。システムを変えれば、話は全く違ってくる。

image by: shutterstock

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