【書評】意味はご存知?人名に「腥」の漢字を使わない方がいい訳

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ほとんどの親御さんは、我が子が不利益を被ることを望まないはずですが、自分がつけた「名前」が子供にとってマイナスでしかないものだったとしたら、泣くに泣けませんよね。今回、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんがレビューしているのは、私たちが普段何気なく使っている「漢字」を取り上げた一冊。近年、名前に使いたいと言う声がよく上がる、とある漢字の本来の意味も解説されています。

偏屈BOOK案内:阿辻哲次『日本人のための漢字入門』

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阿辻哲次 著/講談社

著者は京都大学名誉教授、(公財)日本漢字能力検定協会漢字文化研究所所長、肩書き多数、とにかく漢字に関して偉い人。昭和26年、大阪梅田の零細活版印刷屋の生まれ。門前の小僧は、小学校高学年の頃には、小学校はおろか、中高でも出て来ない漢字にもある程度知識があった。それが今につながる。いい環境のお育ちだな。私はせっかく農家に生まれたのに、成人の頃は土地成金だ。

人名用漢字見直しの話は面白い。その始まりは平成15年、出生届けで当時は使えなかった「曽」という文字をめぐり裁判が行われ、行政側が敗訴したのがきっかけだった。この判決を受けて法務省民事局は、人名用当用漢字の抜本的な見直しに着手、漢字を研究対象とする著者も「法制審議会人名用漢字部会」の委員になった。現在の日本では名前の付け方について、法律上の規定がある。

それは時代とともに変化して来た。名前には常用漢字と人名用漢字と平仮名、カタカナだけが使える。ローマ字は使えない。Q太郎やP子はダメだ。戸籍上の名に関する規定だから、ペンネームや芸名・通称はまったく自由である。だが、常用漢字に「当用漢字」1,850字も含めたため、大きな問題が発生した。当用漢字は固有名詞を対象としていない、と明言されている。ということは……。

昔から普通に名前に使われてきた漢字が含まれない。弘、昌、聡、彦などがない。法務省はそんな命名の範囲を決めてしまった。問題が起きないはずがない。団塊の世代の時代に、国民の各層からもっと色々な漢字を名前に使えるようにしてほしいという要望が出てきたのは当然である。その後も何度も追加があって、「当用漢字表」が「常用漢字表」に変わり……追っていったらきりがない。

「昂(コウ、あがる、たかい)」は名前ではほとんど「たかし」と読まれる。似た字に「昴(すばる)」がある。瀬古利彦が子息に「すばる」とつけたかったが、当時「昴」は常用にも人名用にもなかったので、似た「昂」を使い「すばる」と読ませた。小さな違いは無視して。大胆である。というか……。後に「昴」が人名用漢字に追加されたので、いまは名前をそう改めたという。

パソコンがブームになって、漢字ブームといわれる現象が起き、子どもの命名にも変化が生じた。もっと名前に使える漢字をふやせと。法務省は平成2年、人名用漢字を118字も追加。著者の先輩が娘さんの名前に使いたがった「澪」や瀬古の「昴」も入った。一昔前まではまず名前に使われなかったであろうと(著者が)思える漢字もたくさん含まれていた。意味を知らない人は平気だが。

子どもの名前に使いたい漢字の希望にはきりがない。委員会で半年にわたり、さまざまな漢字を検討したが、なかには驚くべき要望もあった。太陽と月とが並んだら「明るい」になるんだから、月と星が並んだら同じく「あかるい」になるはずだから、「腥」を「あきら」と読ませたいと。「腥」のヘンとなっている月はニクヅキであって、天体の月ではない。辞書を引けばすぐわかるが。

「腥」とは「動物の肉がなまぐさい」という意味だ。問題のある漢字の数々を人名用漢字に入れるのに反対していた審議委員の意見はスルーされ、パブリックコメントで反対されるとあっさり迎合というのがお役所のやり方だ。一般からの意見として批判が集まれば、それを根拠に粛々と削除する。それが法務省の立場なのであった。まったく、お役所仕事というやつは……。

編集長 柴田忠男

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