プリングルスといえば、世界各国で人気の「ポテトチップス」。ところがかつてイギリスでは、「プリングルスはポテトチップスか、ビスケットか」を巡り法廷闘争が巻き起こったのだとか。一体なぜそんな事態となったのでしょうか。今回の無料メルマガ『アリエナイ科学メルマ』で現役科学者のくられさんが、その背景を解説しています。
クッキーとビスケットから分かるお菓子事情
クッキーとビスケット。同じだと思っている人も居ますが、厳密にはビスケットという言葉は小麦粉類を焼いて固めたお菓子全般の総称で、実はクッキーもクラッカーも乾パンもプレッツェルもJASの規格においてはビスケットと呼ぶことになっています(ただし、一部は呼び名を変えても良い)。
どうしてそんなに細かくなっているのかというと、法的なJAS縛りだけでなく、社団法人全国ビスケット協会という組織があり、ほぼ全ての焼き菓子メーカーは加入しているため、何をクッキーと呼び、何をクラッカーと呼ぶのか、JASよりさらに業界団体で取り決めしているからです。
どうしてこんな取り決めをするのかというと、こうしたルール作りをしていかないと、本来のお菓子からどんどん材料や製法が乖離していって、気が付けば別物が本物を塗り替えるようなことになりかねないからです。
例えばプリンは本来、蒸したり焼いたりして作るお菓子のはずですが、店頭に並ぶプリンは、プラスチック製の容器に入ってますよね。焼き菓子であれば容器がおかしいですよね?
実はプリンとして売られているものは実際は、ゼラチンやアガー(寒天)で冷やし固めたもので、プリン風の味のゼリー…というのが正解でオリジナルとは別物に成り代わっています。美味しいので別にいいのですが(笑)。
業界がなく規格がないと同じお菓子でも素材が全然違うなんてことも起こりうるわけです。
ビスケットの種類
ビスケットの種類は、大きく分けて、ハードビスケット、ソフトビスケット(クッキー)、クラッカー、パイ、プレッツェル、焼き菓子(加工品)となります。
詳しくはビスケット協会のサイトに譲りますが、重さ当たりのカロリーはハードビスケットが最も低く、パイやソフトビスケットなどは油脂が多くカロリー多めになりやすく、さらに口当たりが柔らかいので、パクパクいけてしまいます。
ハードビスケットはグルテンも多く含まれ、硬い歯ごたえは食べ応えがあり、満足感も高く、糖分も控えめなのに甘く感じます。ダイエット中、どうしても間食したくなったら、ハードビスケットと覚えて置くといいかもしれません。
ちなみにネット等でよく売られているダイエットクッキーの類いは、実はカロリーはぜんぜんダイエットになっていない商品がまかり通っています。
食物繊維を入れているから、おからを入れているからというだけで、油脂のカロリーはカットできるわけもなく、ダイエット用と言っておきながらカロリー据え置きという商品が多くあるのです。
さて、日本の取り決めによるラベル表示を見ることで、その焼き菓子の脂肪分を知ることが実は出来ます。クッキーは脂肪分の含有量が4割を超えているものに対して名前が付けられることになっています。
ご存じの通りビスケット類は、ショートニングをはじめ結構な量の油脂で小麦を練って作りますから、原材料をみて一番多い油脂がバターと書いてあるものは原価が高く高品位のものが多い、ショートニングはどっこいどっこい、植物油脂とまとめられているのは及第点みたいな感じで味をある程度見極めることもできたりします。
さて、これらの区分ですが当然日本では日本のルールがあり、各国には各国のルールがあります。
イギリスではビスケットとクッキーの線引きはありませんし、アメリカはビスケットという言葉自体があまり使われずクッキーで統一されています。
ちなみにお菓子売り場でも人気のプリングルスは、ポテトチップではなくてビスケットであるということが知られています。
どう考えてもポテトチップですが、実はこれ、イギリスでポテトチップに対して肥満予防の税金をかけたのが関連しています。
プリングルスは「ウチの商品はポテト以外の野菜や小麦粉を混ぜて焼き固めたものだからビスケットつまり税金を払う理由は無い」という脱法ドラッグディーラーみたいなこと言いだしたのです。
結果、2008年に最高裁でポテトチップではないということが確定しました。故にあれはポテト以外のいろいろなものを混ぜて焼き固めたビスケットと思っておいた方がよいってことですね(笑)。食べ過ぎると太るわけですw
ちなみに2009年にその判決はひっくり返されて結局税金を払うことになったとか。そうそう抜け道めいたことはできない、ということですね。
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