切られた尻尾。安倍首相の愛憎と企みに翻弄された河井夫妻の末路

arata20200625
 

昨年夏の参院選を巡る公職選挙法違反容疑で逮捕された、河井克行前法相・案里参院議員夫妻。6月25日には中国新聞や朝日新聞が、前法相が「安倍さんから」と口にしつつ地方議員らに現金を手渡したと報じるなど、事件は新展開を見せつつあります。そもそもなぜ案里氏は選挙に立ち、克行氏は疑われているような「買収」に手を染めたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、「安倍首相の愛憎と企み」をキーワードに、事件の真相の読み解きを試みています。

安倍首相の愛憎に翻弄され、拘置所暮らしとなった河井前法相

「自民党は終わった」「変えなければ」。そう言っていた。民主党へ政権が交代した直後のテレビ映像。河井克行氏は妻、案里氏と食卓を囲みながら、新しい時代の政治家像を思い描いているように見えた。

それが、いかなる運命か10年後の今、河井夫妻は東京地検特捜部に公選法違反(買収)の疑いで逮捕され、東京拘置所のなかにいる。つい8か月ほど前、すべては法務大臣である自らの手の内にあったはずの仕組みに、からめとられたのだ。

元外交官の作家、佐藤優氏はラジオ番組で、逮捕直前の河井氏と話したことを明かした。外務省時代に背任容疑で拘置所暮らしを経験した佐藤氏は、不安におののいているであろう知人を気遣い、電話した。佐藤氏がアドバイスしたのは、なんと、水虫の予防策。

「逃亡される可能性があるから靴を取られちゃって、サンダルが支給されるんだけれど、そのサンダルが使い古しで、水虫菌がたっぷりついているんです。それで水虫にものすごく苦しめられることになるんですよ」

だから、別途、サンダル購入の手続きをしたほうがいいのだ、と。些末なことにこそ、人の自尊心は激しく傷つけられる。河井氏のほうからは洗濯について質問があった。佐藤氏は週に1回しか洗濯できないと話したという。

安倍首相は通常国会閉会の翌日、記者会見の冒頭で、こう述べた。

「本日、我が党所属であった現職国会議員が逮捕されたことについては、大変遺憾であります。かつて法務大臣に任命した者として、その責任を痛感しております…この機に、国民の皆様の厳しいまなざしをしっかりと受け止め、我々国会議員は、改めて自ら襟を正さなければならないと考えております」

拘置所ではたぶん、テレビは見られないだろうが、新聞は買える。河井氏が、安倍首相のこの談話を読んだとして、どう思うだろうか。自分が総理の立場でも、このような言い方になる、などと冷静に受け止められるであろうか。

「我々国会議員は、改めて自ら襟を正さなければ」。

何を他人事のように。案里を参院選に立候補させるよう持ちかけてきたのは、あんたじゃないか。河井氏はきっとそう思うだろう。

「官邸から『出なさい』って言われたの。『それじゃあ、出ましょうか』ってお受けしたんです。落ちたら無職ね」

 

参院選への出馬が取り沙汰されていた昨年初め、案里議員は地元の会合で支援者から出馬について問われ、いつものように明るい表情でこう答えたという

(「河井案里容疑者『出馬は官邸の意向』 昨年の参院選 克行容疑者が陣頭指揮」6月19日 東京新聞WEB)

振り返れば、2012年が河井氏の運命の分かれ目になった。この年の9月に行われた自民党総裁選は、過去最多の5人が立候補し、まれにみる激戦が繰り広げられた。

安倍晋三氏は、所属派閥「清和会」会長、町村信孝氏の出馬がほぼ決まっていたため、森喜朗氏に反対されたのを押し切って出馬した。しかし当初は不利が予想された。地方で圧倒的な支持を集めていた石破茂氏や、当時の党幹事長、石原伸晃氏より劣勢と見えた。

故鳩山邦夫氏が主宰した派閥横断型の政策グループ「きさらぎ会」の中心メンバーだった河井氏は、「安倍さんを応援してほしい」と言う鳩山氏に賛同して、安倍氏のための票集めに奔走した。鳩山氏自身は2010年に離党し当時は無所属だった。

麻生派、高村派、そして派閥横断グループ「きさらぎ会」に支えられ、安倍氏は第1回投票で2位に食い込み、決選投票では石破氏を逆転して、再び自民党総裁に返り咲いた。

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