切られた尻尾。安倍首相の愛憎と企みに翻弄された河井夫妻の末路

 

もとより、溝手票をうまく二つに割って、二人とも当選などという御託を信じる大甘な政治家などいない。1億5,000万円を手にした河井氏は安倍首相の意図を察した。

総理側近の自負からくる傲慢さも規範意識を著しく鈍らせるのだろう。溝手氏のことなどかまってはいられない、放っておけば溝手氏に流れる票を取り込むため、潤沢になったカネをどんどん使う、という気になったのではないか。

6月20日の東京新聞WEBによると、1億5,000万円は昨年4~6月、二人の政党支部口座に入金された。うち8割に当たる1億2,000万円は、政党交付金。残る3,000万円は党費収入などによる党本部の自主財源だったという。

河井夫妻の容疑は参院選の約3カ月前の昨年3月下旬から投開票後の8月上旬ごろにかけ、広島の県議や市議ら延べ96人に121回にわたり合わせて2,570万円を配ったというもの。春の統一地方選あたりで「当選祝い」「陣中見舞い」と言って渡したケースもあれば、地方選名目が通用しない時期には、あからさまに案里氏への支援を依頼したこともあったようだ。

6月22日の朝日新聞デジタルは、取材に応じた広島市議の証言として以下のように伝えている。

証言によると、克行議員が参院選前の昨年6月初め、市議の事務所を訪問「案里の支援は難しいでしょうか」と尋ねた。克行議員は3月下旬にも訪れて30万円を渡してきたため、市議は「こんなことをしてはいけない」と訴え…克行議員が譲らないので、…違法性を指摘した。さらに広島で起きた別の公選法違反事件に触れ…断ろうとした。それでも克行議員は「まあまあ」と封筒を押しつけ…20万円が入った別の封筒を置いていった

一方、安倍首相は地元・山口の安倍事務所スタッフを総動員して、河井案里氏を当選圏内に押し込む態勢を敷いた。そのためには、溝手氏を応援してきた企業、団体に働きかけるのが、新規開拓よりはるかに効率がいいのは自明だ。

週刊文春6月25日号の記事にこんなくだりがある。

「安倍首相の地元で筆頭秘書を務める配川博之氏をはじめ…4人の安倍事務所秘書がたびたび広島入り。案里氏の秘書と二人一組で企業や首長を回ったのです」(自民党県議)

 

訪問を受けたある社長は、小誌の取材に「河井さんの秘書だけでなく、総理の秘書が来たから会った」と素直に明かした。

ふつうの秘書だと会わない首長でも、首相の地元事務所筆頭秘書という肩書には一目置くようで、アポなし訪問でも会ってくれたらしい。

安倍首相の異例とも思える全面的な支援。妻の当選を願い自ら現金をひそませて集票活動をしてまわった河井前法相。親分子分のみごとなコラボが、自民党県連の結束を乱し、結果として森本真治候補に、前回を13万以上も上回る票を与えた。そして、長い年月威容を誇ってきた溝手氏の城郭を突き崩し、ふつうならありえない案里氏の勝利が転がり込んできたのだ。

河井夫妻は離党したが、議員辞職はせず、将来の復党へ一縷の望みをつないでいる。彼らには今でも、安倍首相の期待に精いっぱい応えたという思いが強いのではないか。

安倍首相は黒川弘務・前東京高検検事長の定年延長で検察当局にプレッシャーをかけたものの、黒川氏の賭けマージャン問題でとん挫した。そのためにかえって勢いを得た検察は、総力をあげて河井夫妻の立件に突き進んだ。

河井夫妻が悪いには違いない。しかし、安倍首相の愛憎と企みに翻弄されて来た面も否定できないだろう。

「我々国会議員は、改めて自ら襟を正さなければ」。まるで河井夫妻だけに罪をなすりつけるような政権末期の安倍首相に対し、「それでも私たちはついていきます」と言えるのだろうか。

image by: 河井あんり - Home | Facebook

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