なぜ今?コロナのモニタリング指標を変更した東京都の意味不明

kawai20200701
 

6月30日の会見で、新型コロナウイルス拡大防止のための新たなモニタリング指標を発表した小池都知事。しかしながらそこには数値基準もなく、分かりにくいとの声も上がってます。そんな指標の変更を「全くもって意味不明」とバッサリ斬るのは、健康社会学者の河合薫さん。河井さんはメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』に、そう判断せざるを得ない理由を記すとともに、小池知事を含めた日本のリーダーたちが理解していないと思われる「リスクコミュニケーション」の重要性を解説しています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

信頼なき「言葉遊び」

東京都が、感染状況を把握するためのモニタリング指標を変更しました。「新型コロナウィルス」という未知の世界に直面しているのですから、状況をみながら新しいエビデンスに基づき、臨機応変に変えるのは全く問題ありません。というか、むしろ必要なことでもあります。

が、いったいなぜ、今変えるのか?どういう理由で、「指標」を変える必要があるのか?

「感染状況と医療提供体制を柱とする」だの「新しい局面」に入っているだの繰り返しますが、全くもって意味不明です。

しかも、「休業の再要請の目安となる具体的な数値は明記しない」というのです。

指標とは客観的な判断のために存在するものだし、その数値がどんな根拠に基づき、どういう理由で基準になっているのか?それを示すからこそ、「なるほどね」「仕方がないね」と誰もが納得し、行動を起こす動機づけになります。

「総合的な判断」という言葉を東京都は繰り返しますが、その判断の責任はどこの、誰にあるのか?またもや「専門家の…」と責任を転嫁するつもりでしょうか。

「指標=やってる感」を出すためのものなら、やめたほうがむしろ誠実だと思うのは私だけでしょうか?

そもそも「東京アラート」とは何だったのか?当初、東京都は「東京都民に新型コロナウイルスの感染状況を的確に知らせて、警戒を知らせるためのもの」としていました。

レインボーブリッジを赤くし、都庁をおどろおどろしくライトアップし、誰もがそれを見て、「やばいね。自分も感染しない、感染させないを徹底しなきゃ」と自らを戒めました。

ところが、アラートが解除された途端、感染者は急増し、その後もいっこうに減る気配はありません。

アラートを発令しない理由を聞かれると、「感染経路がわかっている」「積極的に検査してもらっている」だの、これまたその場しのぎとしか思えない回答を繰り返しました。

そして、ついに「指標を変える」と言い出した。まさか「あれこれ言われるのもめんどくさいから変えちゃえ!」ってわけじゃないでしょうが、これでは「自分の都合でしょ?」と批判されても仕方がありません。

たとえ、「指標を変える」という決断が正しいことであっても、プロセスを明確にし、「信頼」を得なければ絵に描いた餅になってしまうのです。

今、私たちが直面しているのは「目に見えないウィルス」との付き合い方です。目に見えないものに、人はとてつもない恐怖と不安をいだきます。その恐怖がときに暴力的かつ刹那的な言動で人を貶め、差別や排除につながっていきます。

リーダーたるものは、そういった人間の感情をきちんと理解した上で、誠実な言葉を紡ぐ必要があります。

ところが、残念なことに、今回のコロナ禍では、いや、コロナ禍でも、良質なコミュニケーションがとれるリーダーはあまりいませんでした。

おそらく…「リスクコミュニケーション」の重要性を理解していないのです。

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