2点目は、具体的な批判方法を全く教えないという問題です。本を読んだ感想というのは、本来であれば批評になるはずです。批評というのは、適当に思いついた悪口を言うということではありません。具体的な手続きがあるのです。
ノンフィクションであれば、テーマ、事実、因果関係、他の仮説との比較、全く別の専門分野の視点からの批判、提案の実現可能性、結論の説得力など、様々な要素に分けて内容の検証が必要です。また、書き方ということでも、構成、表現方法、使用語彙、比喩などレトリックの正当性、引用の適切さ、結論の主張の仕方など、具体的な要素に分解して評価をしなくてはなりません。
フィクションも同様です。面白かったとか感動したというのではなく、具体的な評価ポイントを教えるべきです。テーマ、題材、背景、問題と解決、伏線と回収、キャラの造形と成長、キャラ同士の比較相関と関係の変化、ストーリーのダイナミズムとテーマの整合性、といったストーリーテリングの問題。更には背景となる風土やカルチャーのリアリティ、サブプロットやフレームの指摘と有効性評価など、様々な要素があるわけです。
そうした具体的な観点から、対象書籍についてできるだけ事実に基づいて評価するのが批評です。そのようなアプローチを、全く教えずに「本を通じた成長」とか「感動と発見の記録」などという、低レベルに子供を押さえつけるというのは、野球で言えば実戦形式ではなく、素振りの型や、シャドーピッチングの美しさを競わせるような話です。
そんな具体的で技術的な批評というのは、大学レベルだという批判もあるかもしれませんが、冗談ではありません。今の子どもたちは、例えばゲームやユーチューブ動画などについて、そのぐらい厳しく具体的な視点で日々批評をしながら生きているのです。
文部科学省も、「主体的、対話的で深い学び」などと、立派なスローガンを掲げていますが、カビの生えた読書感想文教育一つ改革できないようでは、全くもって情けないとしか言いようがありません。
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