新型コロナウイルスの影響を受けた企業の倒産が増えています。特に大きな打撃を受けている飲食店、ホテルや旅館の倒産が全体の約3割を占めているそうです。このまま収束が見えない中、景気低迷は続いていくのでしょうか。ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは自身のメルマガ『j-fashion journal』の中で、将来に不安がある限り消費は回復しないと断言。一方で、消費者の不安がなくなれば、景気はV字回復すると説いています。
グローバルなデフレ時代がやってくる
1.世界中で倒産と失業者が増える
新型コロナウイルス禍で、世界各国で都市封鎖が行われ、世界経済が停止しました。百貨店や専門店、ショッピングセンターも閉鎖されました。工場も閉鎖です。つまり、需要もなくなり、供給も途絶えたということです。
しかし、生産設備は無傷です。戦争や地震、津波ではないので、生産設備は被害を受けていません。それなら、すぐに生産再開できるのかというと、工場は注文がないと生産できません。
注文を出す小売店が営業を停止していたので、資金が減少しています。営業しなくても、賃料は発生しますし、従業員の給与も発生します。その分、資産が減りました。
そうなると、新しい商品を仕入れる予算も不足します。そこで、不採算店の閉鎖、人員削減を行うことになります。この段階で倒産することもあります。倒産しなくても、事業規模は縮小し、失業者も発生します。
小売店が営業を再開して、新たな注文を工場に出すにしても、以前より数量が少なくなります。つまり工場の売上も減少します。
工場も小売店と同様に、営業停止期間であっても、賃料や従業員の給与が発生します。この段階で倒産してしまう工場もあるでしょう。
営業停止の期間を乗り切っても、そのマイナス分を取り返すことは困難です。むしろ、注文は減るので、元の水準に戻すだけでも時間が掛かります。
もし、工場に資金繰りの余裕がなく、注文が損益分岐点を割れば、赤字になります。こうして、また倒産が発生し、失業者も出ます。このように需要も減少し、供給も減少します。倒産が増え、失業者が増えます。不景気になります。
2.不安心理による消費不況
小売店の売上が回復するかは、消費者心理に掛かっています。消費者が将来に不安を感じなければ、政府から10万円支給されれば、すぐに消費に回すでしょう。旅行に行ったり、美味しいものを食べたり、新しい服やバッグを買うかもしれません。
しかし、将来に不安があると消費をする気持ちになれません。専門家は、一度ウイルス感染が収束しても、完全に消滅したわけではないと言います。第二波、第三波の可能性があるそうです。
そうなると、第一波を乗り切った企業も倒産するかもしれないし、自分も失業するかもしれない。消費者は不安になるので、お金を貰っても、消費せず貯蓄に回すでしょう。
いくら、政府が消費を刺激しようとしても、不安があれば消費しません。消費税が上がった時よりも更に不安は強いはずです。ですから、仮に一人100万円配っても使わないと思います。不安な将来に備えて貯蓄するはずです。
この消費者の不安は世界中で起こります。そして、企業倒産も失業者も世界中で増加するはずです。マスコミは病気の不安を煽りましたが、次は経済不安を煽るでしょう。消費者心理は益々冷え込みます。
3.テレワークによる不動産下落
今回の新型コロナウイルス禍で、会社に行けなくなり、テレワークが急速に普及しました。通勤しないで済むのは楽だし、打ち合わせもオンラインの方が集中するので時間も掛かりません。テレワークによって、簡単に働き方改革が実現したのです。
必要のない会議や出張があることも気がつきました。もちろん、対面した方が良い場合もありますが、オンラインの良さもあります。
新型コロナ禍が終息したとしても、テレワークは残るでしょうし、社員全員が同じ時刻に通勤しなくても良いのかもしれません。
外資系の会社は、テレワークを継続することを決定しています。本社移転計画を白紙に戻し、本社が必要ないと判断した会社もあります。
テレワークが定着すれば、賃料の高い都市部に住む必要もありません。会社の立地も同様です。賃料の高い都心部に事務所を構える必要はないのです。そうなると、都市部の不動産価格は下落するでしょう。ここでも、不動産の資産価値が失われます。
4.新型コロナ終息でも元に戻れない
おそらく、新型コロナウイルス禍は夏には一度終息するでしょう。そして、来年になれば、ワクチンや特効薬もできるかもしれません。
しかし、いつ第二波、第三波が来るか分かりません。別のウイルス感染症が発生するかもしれないし、ウイルスが突然変異してワクチンや薬の効かない変種が出るかもしれません。
もし、第二波が来て、外出が制限されると、更に多くの資産が失われます。そして、多くの企業が倒産し、失業者が出ます。この不安感が払拭されない限り、購買意欲は起きず、市場は低迷を続けると思います。インフレからデフレへと逆方向の歯車が回りだせば、簡単には戻らないのです。
そもそも、日本以外の先進国もデフレの可能性はありました。しかし、アメリカも日本の通貨を大量に株式市場に投入することで、株価をつり上げていました。それも限界に来ています。金融バブルも崩壊するでしょう。
新型コロナウイルス禍は、それ以前の矛盾をさらけ出し、時代の変化を加速させるはずです。そして新たな時代が到来します。少なくとも、コロナ以前の時代には戻れないのです。
編集後記「締めの都々逸」
「コロナ過ぎても 戻らぬ世界 半分自粛で 生きていく」
需要と供給が同時に減少すると、何が起きるか。順序立てて考えていくと、双方の資産が失われ、売り場が少なくなり、生産量も減少する。双方ともに売上が減少します。
もし、消費者が何の不安も持たなければ、V字回復するでしょうが、将来に不安があると消費を控え貯蓄に回すので、消費は低迷が続くと思います。そこから始まる時代とはどんな時代なのでしょうか。それについても考えたいと思います。(坂口昌章)
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