「黒い雨」原告全面勝訴を歓迎した各紙、解説しなかった読売新聞

 

特例を拡大せよと?

【読売】は1面左肩と31面社会面。見出しから。

(1面)
「黒い雨」84人被爆認定
広島地裁 援護区域外も救済

(31面)
「黒い雨」訴訟
苦しみ75年「長かった」
原告ら 控訴断念求める
市と県、立場複雑

●uttiiの眼

《読売》は1面の本記と社会面の取材記のみ。解説的な扱いもなければ、社説での取り上げもない。見出しを見る限り、特に社会面については、判決を肯定しているようにも見えるし、記事冒頭には「広島地裁判決は、同じ雨を浴びながら置き去りにされてきた原告らに救いの手を差し伸べた」ともあり、歓迎しているようでもある。しかし全体として強調されているのは、広島市と広島県の立場の微妙さという点。

《読売》の記事のベースには、「黒い雨を浴びた人は「特例」で遇すべき」という主張が見え隠れしている。援護法上の「被爆者」の範囲を拡げると大変なことになると言いたいのだろう。「ねじれ」に関する記述の中でも、2010年、市と県が膨大な住民調査を元に特例区域」を6倍に拡大するよう要望したこと(有識者検討会に退けられる)が紹介されている。

《読売》によれば、厚労省の担当者は「判決に従えば、被爆者の範囲は大きく広がり、予算も膨らむ。対象地域の見直しの必要性なども含め、早急に今後の対応を検討したい」と語っており、別の厚労省幹部も「積極的に被爆者認定することは必要だが、認定には科学的な裏付けが欠かせない。厳しい判断だ」と判決に批判的なコメントを紹介している。

こうした姿勢の背景にあるのが、自民党内に蔓延する「ニセ患者論」であることはこれまでも何度か書いてきた。原爆の「黒い雨」だけでなく、水俣病の認定についても同じ問題が起こっている。原爆投下にせよ有機水銀の垂れ流しにせよ、加害者側と被害者との関係は圧倒的に非対称だ。被害者側が被害を立証する場合に要求される「科学的・合理的な根拠」とは何か。よく考えるべきだろう。広島地裁は、証言に「不自然不合理な点はない」として、原告の主張を認めている。当然のことと思われる。

3号被爆者

【毎日】は1面トップに2面の「焦点」、5面に社説、27面社会面に関連記事。見出しから。

(1面)
「黒い雨」訴訟 原告勝訴
区域外被曝 初の認定

(2面)
「黒い雨」原告勝訴
援護法の理念重視
国の線引き否定
被爆者救済 転換迫る

(5面・社説)
黒い雨訴訟で原告勝訴
国は広く被害者の救済を

(27面)
3姉妹「声届いた」
全員認定 父母に報告
原告団長「地裁英断」

●uttiiの眼

《毎日》も《朝日》同様、判決を歓迎し、「黒い雨」に関して広く被害者の救済を行うよう求めている。2面の「焦点」では、「原爆の悲惨さや、放射線被害の特殊性を踏まえ、国の責任による「国家保障的配慮」が必要だとする被爆者援護法の理念を前面に打ち出した」とし、これにより、「国の援護行政の在り方が、根底から見直しを迫られる可能性がある」としている。

援護法は被爆者を3つに分け、1号被爆者(直接被爆)と2号被爆者(入市被爆)以外に3号被爆者を設けているのは、放射線の影響が長期に及ぶ点などを考慮し、広く健康診断などを実施する為だと解釈して、「内部被曝」の可能性にも言及、そのことによって、黒い雨の体験者を被爆者と認定する道を開いたことを特に強調している。

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