「黒い雨」原告全面勝訴を歓迎した各紙、解説しなかった読売新聞

shutterstock_301842128
 

75年前の8月6日、広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」による健康被害を巡り、国が線引きした援護区域の妥当性などが争われた裁判で、広島地裁は原告側の訴えを完全に認める判決を下しました。今後は国が控訴するか否かが焦点となりますが、ひとまず今回の司法判断を新聞各紙はどのように報じ、論じたのでしょうか。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんが分析、解説を加えながら紹介し、批判が滲む読売の論調には疑問を呈しています。

「黒い雨」訴訟判決について、各紙の「論」を問う

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…黒い雨 区域外も被爆者
《読売》…医療情報 デジタル共有
《毎日》…「黒い雨」訴訟 原告勝訴
《東京》…「黒い雨」救済判決

◆解説面の見出しから……。
《朝日》…黒い雨 国の「特例」否定
《読売》…対中包囲網 米豪主導
《毎日》…米中覇権争い 新局面
《東京》…再処理 矛盾抱え「適合」

プロフィール

■県と市のジレンマ■《朝日》

■特例を拡大せよと?■《読売》

■3号被爆者■《毎日》

■衝撃的な判決■《東京》

県と市のジレンマ

【朝日】は1面トップと10面のオピニオン欄に社説。31面社会面に関連記事。見出しから。

(1面)
黒い雨 区域外も被爆者
国の線引き「不合理」
広島地裁、初判断 84人全員認定

(10面・社説)
「黒い雨」判決
線引き行政改め救済を

(31面)
被爆75年 やっと認定
副団長急逝 届けたかった全面勝訴
8歳のあの日 黒い雨を友と浴びた
被爆者認定の新たな枠組み
法の趣旨立ち返り救済拡大を(視点)

2面の解説記事「時時刻刻」は、「黒い雨」を巡る援護行政と判決の詳細を簡潔にまとめている。これまで国は「黒い雨」の「大雨地域」にいて特定疾病を発症した人に対し、「恩恵的措置」として「被爆者」とする対応をとってきたが、今回の判決では、「黒い雨」を浴びて特定疾病にかかった人を、正面から援護法上の被爆者であると認めたと強調している。

となれば、当然、援護行政の見直しを求める声が強まるのは必至で、《朝日》も社説の中で、「地理的な線引きで対象者を限ってきた国の被爆者援護行政を否定し、個々の被爆体験に関する証言と健康状態を重視して広く救済する。そうした視点に立つ画期的な判決」と最大限の言葉で判決を評価している。

「時時刻刻」の最後段は、広島県・広島市の立場のねじれについて。特に広島市長は、「黒い雨降雨地域の拡大を」との言葉を平和宣言に盛り込むなど、被害を訴える人々への援護拡大を求め続けてきた。一方で、援護行政の手帳交付事務を委託されている立場としては、「小雨地域」の住民から被爆者健康手帳などの申請があっても却下せざるを得なかった。今回も、松井市長は「原告の方々の切なる思いが司法に届いた」としながら、被告としては「今後の対応について厚労省や件と協議して決める」と言わざるを得ない。ねじれは続いていると。

●uttiiの眼

市や県の立場のねじれについては、市独自、県独自の援護行政のなかで救済する方法はなかったのだろうかという問いかけがあって然るべきだろう。もっとも、仮にそのような「救済」がなされたとしても、国の援護行政の問題がなくなるわけではない。

ジレンマの議論の中に、「時時刻刻」らしく、国が援護行政の範囲を政治判断によって少しずつ拡大してきた歴史に関する興味深い記述があった。「黒い雨」についても、雨が激しく降ったことが証明されている地域について「特例的」な援護対象とし、78年には韓国人被爆者への手帳交付を巡り「国家補償的配慮が制度の根底にある」との最高裁判断が出て、しかし、これが「思わぬ「ブレーキ」」になってしまう。

80年に厚生大臣の諮問機関が「戦争被害は国民が等しく耐え忍ばねばならない」という「受忍論」を打ち出し、被爆地域の指定には「科学的・合理的な根拠」が必要ということになった。今回はまさしく「科学的・合理的に根拠」を国が示すことが出来ず、敗訴に至ったということになると。

print
いま読まれてます

  • 「黒い雨」原告全面勝訴を歓迎した各紙、解説しなかった読売新聞
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け