97年前の9月1日11時58分32秒。神奈川県人は関東大震災で何を体験したか

 

こんなことを考えながら、資料を眺めていた私は、ある大切なことに気づかされました。

それは「信用」というものの大切さです。

あれだけの大災害から首都圏が立ち直るためには、政府や国民の努力だけではなく、膨大な「資金」が必要になります。政府も企業も備蓄していた資金を放出しましたが、それだけで足りるはずもありません。

そこで、政府は「震災善後処理公債」を発行して、海外から資金を調達します。

米国のモルガン商会は、当時の国家予算の60%を超える10億円という額の公債を引き受けます。ロスチャイルドもまた多額の引き受けに参加します。

見方を変えれば、その後の帝都の復興と近代化は、モルガンやロスチャイルドなどの欧米財閥からの借金により成し遂げられたと言っても良いでしょう。

もちろん、貸し手側の彼らも慈善事業をやっていたわけではありません。

当然、貸した金は、利息込みでしっかり回収しました。

そもそも、彼らは「回収できる」と判断したから貸したのです。貴重な資金を日本の公債に投資したのです。

つまり、彼ら欧米の財閥は日本を「信用」していたわけです。

金融の世界で最も大切なのは、この「信用」なのです。

当時、まだアジアの貧乏国に過ぎなかった日本は、日清、日露の戦役でも必要となった戦費を欧米から借りました。高橋是清たちが、頭を下げて世界中を回ったのです。

そしてその後、血と汗と涙を振り絞って、これらをきちんと返済しました。

さらに程なく勃発した第一次大戦にも、日本は英国、米国に味方して参戦します。

その結果、日本は彼らの「信用」を得たのです。

ですから、関東大震災への支援金や支援物資においても、米国は群を抜いていました。

彼らのおかげで日本は立ち直ったのです。

その後、20年足らずで、日本と彼らが戦火を交えるなどと、当時の誰が想像したでしょう。

そして、第二次大戦の悲劇を乗り越え、75年の歳月をかけて、日本は再び、彼らに「信用」される国家として蘇りました。今や日本の国債は、ある意味、米国国債以上の信用を得ています。

一方、今日の中華人民共和国政府は、国内政治を優先させるために、香港に関する「一国二制度」の国際公約を破り捨てました。かくて、中共の信用は地に落ちました。

経済力と権力、札束と脅ししか信じていない彼らには、「信用」というものの価値が理解できなかったのです。

日本の中、特に財界人の中にも、「現実主義」を標榜して、「中国抜きで経済など成り立つものか」とうそぶいている人たちがいます。

もちろん、中国という「現場」を知っている彼らの部下たちは、中共政府傘下のビジネスマンたちが利害得失でのみ動く「信用」のできない相手であることを熟知しています。

しかし、冷房の効いた部屋で数字だけしか見て来なかった「経営者」たちは、彼の国を「普通の経済大国」、巨大なマーケットとしか見ていません。

そうした「財界人」の硬直した頭脳では、海千山千の欧米資本主義の先輩たちが、なぜ今、中共を見限ったのかということすら分からないのです。

莫大な犠牲と努力により築き上げた日本の「信用」をドブに捨てる者がいるとすれば、それは、彼らのような「お雇い財界人」でしょう。

少々脱線してしまいましたが、関東大震災という未曾有の災害が意味するものは、実は想像以上に深く重く、その根は現在にも繋がっているのかもしれません。

気が付けば、その「関東大震災100周年」が3年後に迫っています。

image by: Shutterstock.com

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