【第8回】年齢を重ねると好みが変わる? 加齢に伴う「ココロの変化」春日武彦✕穂村弘対談

 

うっかり八兵衛は、助さん・格さんになりたい?

穂村 歳を取って自分としてはいろいろと変わってきているという自覚があるんだけど、どうやらまわりからの見られ方はそんなに変わってないっぽいんだよね。例えば、人生の岐路に立たされた人から相談をもちかけられたことはほぼ皆無。人に頼られるということがまったくない。

春日 ああ、歳を取っても、ベースとなるキャラの部分は変わらないわけね。万年「この人に頼っても仕方がない」キャラ(笑)。

穂村 その問題でいうと、テレビとかを見ててずっと気になっているのが、いわゆる「下っ端キャラ」なんだよ。ドラマや映画の場合、主に風貌とか喋り方で役割が決まっちゃうでしょ。例えば、『水戸黄門』のうっかり八兵衛役の高橋元太郎が「助さん・格さんをやりたい!」って一念発起したとしても、黄門様の脇を固める彼らは顔が濃くて長身で筋肉質でしょ。八兵衛は真逆じゃない? 元々のキャラから抜け出せない僕は、どうしても彼に感情移入してしまうんだよね。どういう活路があるのか? どういう脱却の仕方があるのか? って。

春日 悪役商会的な、ああいう居直り方をするんじゃなくって、あくまで脱却したいんだね。

穂村 その中間もあるよね。超コワい系にまでは行かない、俳優の川谷拓三(1941〜95年)みたいなバランスの人。下っ端キャラでもあり、悪役的でもある、みたいな。でも八兵衛の境地まで行くと、キャラ変して悪役にもなれなさそうだし。

春日 でもさ、八兵衛こと高橋元太郎は、もともとスリーファンキーズのメンバーなのよ。つまり元アイドルグループの人なんだよね。ということは、そこから脱却して八兵衛になるという、ある意味途方もない変遷をやってのけた人とも言えるわけ。

穂村 え、そうなの。知らなかった。それで思い出したけど、昔家でテレビを見てて谷啓が出てくると、その度に父親が「あの人は日本で1番トロンボーンの上手い人なんだ」って言ってたな。そういう「実は」は格好良いね。

春日 彼はかつて、雑誌『スイングジャーナル』のトロンボーン部門でトップだった人だからね。

穂村 なぜ父がそういう反応をしていたかといえば、谷啓の見た目や存在感と、その「実は」の凄さの間にギャップがあったからだよね。そして、それが彼の魅力を引き立てていた。

春日 いい意味でのギャップってやつだね。

穂村 僕には、そういうのがないからなぁ。ギャップを求めてワイルドな振る舞いとかしたら、「あんなふにゃふにゃしてるのに実は暴力男だった!」みたいにマイナスにしか作用しないもの。

春日 穂村さんもいろいろ大変なんだねぇ(笑)。

「憧れは変えられない」問題

穂村 その点では、お医者さんはいいよね。しかも精神科医なんて、いかにも知的でイメージもいいしさ。「あの人はああ見えて医者なんだよ」っていう切り札みたいな。

春日 ちなみに俺はね、妄想を持ったばあさんを扱うのは日本一だよ。この歳でもね、孫みたいに接することができるから。

穂村 甘えるの? 懐に入り込む?

春日 そういう感じだね。出されたお茶は絶対飲むしね。訪問に行くと、2回に1回は帰りに大袋入りのお菓子を持たされる(笑)。

ニコ9月②A_トリ済み

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