【第8回】年齢を重ねると好みが変わる? 加齢に伴う「ココロの変化」春日武彦✕穂村弘対談

 

穂村 つまり、先生はお医者さんであることと、その柔和な雰囲気を活かしているわけだね。キャラを活かしている。そうじゃなくて、自分とはまったく違うキャラを目指すのは、やっぱりキツイと思うんだよ。八兵衛が助さん・格さんを目指すのは。でも気をつけないと、そういうことをやりかねないと思うのよ。

春日 柄でもないことをやっちゃいそうなのね。でもさ、八兵衛が助さん・格さんを目指すのって、ある意味ありがちな憧れじゃん。俺だったら、いっそ人が思いもつかない方向に活路を見出そうとするだろうな。エスペラント語の権威とかさ(笑)。なんにせよ、自己評価というのは他者の評価とは違うわけで、そこが思いっきりズレているとしんどいね。

穂村 でも自己評価とは別に、憧れは変えられない、ということもあるわけじゃん。だって、格好いいと思っちゃったら、それはもうどうしようもないんだもの。僕は若いころショーケン(萩原健一 1950〜2019年)とか松田優作(1949〜89年)みたいになりたいと思ってて。友人に忠告された。同じ格好良い人でも、まだ路線的に何とかなりそうな、上位互換の余地がありそうなところを目指すべきだ、って。松田優作じゃ、路線もなにもすべてが違い過ぎててどうしようもないだろ、って言うんだよ。

春日 その意見には納得できたの?

穂村 できなかった。いや、そんなことは分かってるよ、僕だって(笑)。それでも憧れてしまうし、むしろかけ離れているからこそ憧れてしまうものなんだよ。

春日 でもさ、超美形な男が晩年残念なルックスになることも少なくないじゃない? 後ろ向きな考え方として、そっちに期待するという道もある。むしろ、若い時美しすぎると、歳を取ってからのギャップは往々にして激しくなるからさ。骨格からして違うと思っていた沢田研二が、ある時点から自分寄りのルックスになってきたのを目の当たりにして、いろいろと感慨深いものがあったね。

穂村 憧れの対象が向こうから近づいてきた!

春日 まあ、自分が格好良くなったわけじゃないから、そこに喜びを見出すべきかは微妙なところだけど。

穂村 そういうのを目の当たりにして、先生はどんなふうに思うの?

春日 ざまあ見やがれ、ってね(笑)。「ねえねえ、今の気持ち、どう?」って聞いてみたくなる。

穂村 意地の悪い笑顔だなぁ……(苦笑)。

ニコ9月②B_トリ済み

(第9回に続く)

春日武彦✕穂村弘対談
第1回:俺たちはどう死ぬのか?春日武彦✕穂村弘が語る「ニンゲンの晩年」論
第2回:「あ、俺死ぬかも」と思った経験ある? 春日武彦✕穂村弘対談
第3回:こんな死に方はいやだ…有名人の意外な「最期」春日武彦✕穂村弘対談
第4回:死ぬくらいなら逃げてもいい。春日武彦✕穂村弘が語る「逃げ癖」への疑念
第5回:俺たちは死を前に後悔するか?春日武彦✕穂村弘「お試しがあればいいのに」
第6回:世界の偉人たちが残した「人生最後の名セリフ」春日武彦✕穂村弘対談
第7回:老害かよ。成功者が「晩節を汚す」心理的カラクリ 春日武彦✕穂村弘対談

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春日武彦(かすが・たけひこ)
1951年生。産婦人科医を経て精神科医に。現在も臨床に携わりながら執筆活動を続ける。著書に『幸福論』(講談社現代新書)、『精神科医は腹の底で何を考えているか』(幻冬舎)、『無意味なものと不気味なもの』(文藝春秋)、『鬱屈精神科医、占いにすがる』(太田出版)、『私家版 精神医学事典』(河出書房新社)、『老いへの不安』(中公文庫)、『様子を見ましょう、死が訪れるまで』(幻冬舎)、『猫と偶然』(作品社)など多数。
穂村弘(ほむら・ひろし)
1962年北海道生まれ。歌人。90年、『シンジケート』でデビュー。現代短歌を代表する歌人として、エッセイや評論、絵本など幅広く活躍。『短歌の友人』で第19回伊藤整文学賞、連作「楽しい一日」で第44回短歌研究賞、『鳥肌が』で第33回講談社エッセイ賞、『水中翼船炎上中』で第23回若山牧水賞を受賞。歌集に『ラインマーカーズ』『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』、エッセイに『世界音痴』『現実入門』『絶叫委員会』など多数。
ニコ・ニコルソン
宮城県出身。マンガ家。2008年『上京さん』(ソニー・マガジンズ)でデビュー。『ナガサレール イエタテール』(第16回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品)、『でんぐばんぐ』(以上、太田出版)、『わたしのお婆ちゃん』(講談社)、『婆ボケはじめ、犬を飼う』(ぶんか社)、『根本敬ゲルニカ計画』(美術出版社)、『アルキメデスのお風呂』(KADOKAWA)、『マンガ 認知症』 (佐藤眞一との共著・ちくま新書) など多数。

漫画&イラストレーション:ニコ・ニコルソン
構成:辻本力
編集:穂原俊二
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