【第1回】俺たちはどう死ぬのか?春日武彦✕穂村弘が語る「ニンゲンの晩年」論

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過去最高記録を更新し続ける日本人の平均寿命。厚生労働省によると、男性が81歳、女性が87歳となっています。「人生100年時代」も夢ではない今、我々にとって大切なことは何なのでしょうか。「どう生きるか」より「どう死ぬか」への心構えをすべきと語るのは、小説やエッセイも手掛ける精神科医の春日武彦氏と、現代短歌を代表する歌人の穂村弘氏。今回、そんな二人による「死」をテーマにした対談が実現。「マンガ 認知症」などの作品で知られるニコ・ニコルソンさんの漫画とコラボレーションしてお届けします。

テーマ「俺たちはどう死ぬのか? 」

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「おじさん」という斜め上の存在が必要だよね

春日 新型コロナ禍真っ只中の今、「俺たちはどう死ぬか」という「死」をテーマにした対談をやりたいわけだけど、すごいタイミングになってしまったね。

穂村 本当にびっくり。狙ったわけでもないのにね。

春日 でさ、おそらくこのタイトルを聞いてみんなが想起するのは、少し前にベストセラーになった『君たちはどう生きるか』(マガジンハウス、2017年)だと思うのね。

穂村 編集者・児童文学者の吉野源三郎(1899〜1981年)が1937年に発表した小説を、芳賀翔一が漫画化したすごく道徳的な内容の本だよね。友達を裏切ってしまって悩んでいる主人公の少年が、編集者のおじさんがくれた人生指南的な内容のノートを読んで立ち直っていくお話。主人公とその友だち、そしておじさんとの物語が漫画で描かれていて、合間合間にくだんのノートの文章が挟まれる構成だったね。名著とされている本とはいえ、だいぶ昔に書かれた作品だし、今となってはかなり素朴な内容だと思うんだけど、なぜここまでヒットしたんだと思う?

春日 俺はね、この本で一番人の心をくすぐったのは、主人公を導く「おじさん」の存在だと思うんだ。この人の位置付けが大事なんじゃないかな、って。それで思い出すのが、昔『「おじさん」的思考』(昭文社)の著者でもある思想家・武道家の内田樹さんと対談をしたことがあるんだけど、その時彼は「今の核家族っていうのは、あれは家族じゃないんですよ」って言ってたんだよね。

穂村 へえ、どうしてなんですか?

春日 核家族っていうのは、一組の夫婦とその未婚の子どもから成る家族の基礎単位のことだよね。日本では、戦後の高度経済成長の過程で増えてきた。だいたい父親・母親・子ども1、2人くらいの形が一般的だと思うんだけど、これほどの小規模な集団では、関係性が単なるパワーゲームにしかならない。それじゃあ、本当の意味での「家族」の態をなさないのでは? というわけ。

穂村 まあ、最初は絶対的に親の力が大きくて、子どもはそれに従うという構造になるよね。

春日 そうそう。子どもが小さいうちは親が怒鳴りつけて言うことを聞かせてるんだけど、子どもが成長して力を付けると、時に親に向かって暴力を振るったり、「俺がこんなになったのはお前らのせいだ!」ってキレたり、自閉して引きこもりになったりするわけ。つまり、力が常に親と子のどちらかに傾いているから、バランスが悪いんだよね。じゃあ、どういうのが健康的な関係なのかというと、そこにおじさんのような「外部」が入って来るのがいいんだって。

穂村 親戚だから本当の意味での他人ではないけれど、その分、他人よりももうちょっと事情が分かってて、ちょうど良い塩梅なんでしょうね。近過ぎず、遠過ぎず。

春日 そうなんだよ。そういう、ちょっと斜め上の存在が家族に入ってくることで、絶対的な存在である親の力が相対化されるんだよね。親が偉そうなこと言っても、「そんなこと言ってるけど、お前も子どもの頃は●●だったじゃないか(笑)」みたいな茶々を入れて、いい具合に親の権威を失墜させてくれる。あとは、ちょっと悪いこと教えてくれるのも、だいたいおじさんだよね(笑)。だからこそ、子どもも懐くんだろうし。

穂村 不良っぽい音楽とか、海外から変てこなお土産を買ってきてくれるとか、そういうのね。

春日 ロックとかギターとか、サブカルっぽい本とかさ。で、やっぱり俺もそういうおじさん的な存在って必要だと思うし、薄々みんなもそう思っているからこそ、この本はヒットしたんじゃないかな。

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