【第3回】こんな死に方はいやだ…有名人の意外な「最期」春日武彦✕穂村弘対談

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どんな人間にも必ずやって来る「死」。あなたは自分の死について考えたことがありますか?そんな死をテーマに、小説やエッセイも手掛ける精神科医の春日武彦氏と、現代短歌を代表する歌人の穂村弘氏が深く語り合っていきます。3回目となる今回の対談テーマは「死に方」について。あなたには理想の死に方、ありますか?

春日武彦✕穂村弘「俺たちはどう死ぬのか? 」

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文句のつけようがない最期、でも……

春日 今回は、「死に方」について考えてみたいんだけど、そのテーマで真っ先に浮かんでくるのが山田風太郎の『人間臨終図巻』とかかな。

穂村 政治家から作家、果てには犯罪者まで、著名人の死に様を死んだ年齢順に923人分収めた奇書ですね。あ、山田風太郎も医者だったんだっけ?

春日 代々医者の家系に生まれて、東京医科大学を卒業するけど、事実上ほとんど医者としては稼働しなかったはず。

穂村 そっか。「死」への並々ならぬ関心は、春日先生同様、お医者さん的な視点があるからかな、と思って。あの本を読むと、驚くほどみんな若くして亡くなっているんだよね。昔の人は短命だったんだな、って。

春日 「これっぽっちしか生きてないのに、こんなに名を残してるのかよ!」とか思うよね。この人が代表作を書いた⚫︎歳の時、俺は何してたっけ??とか考え出すと憂鬱になるよ(苦笑)。そうそう、この本にも取り上げられているけど、俺にとってもっとも気になる死に方をした人物の1人に、画家の東郷青児がいるのね。

穂村 独特のタッチで美人画を描いた人だよね。絵が雑誌とかお店の包装紙とかに頻繁に使われてたから、昭和の頃は誰もが知ってる人ってイメージだったけど、どういう死に方だったの?

春日 旅行先の熊本で死んだんだけど、腹上死って言われてて。しかも81歳だからね!ボケてもいなかったし、二科会会長という地位もあれば、自身の名を冠した美術館だってあるわけでさぁ。

穂村 地位も名誉もあって、つまり、いろんな意味で絶頂の中で死んだわけね。

春日 はたから見たら、文句のつけようがない最期だよ。腹上死だってさ、世間一般の見方からすれば「男の夢」みたいな話なわけじゃない?でもさ、一方で彼の絵って、圧倒的に値段が安いのよ。生前も生後も。やっぱり「あの洋菓子の包み紙でしょ」的に見られてて、遠回しにバカにされているようなところがあった。

穂村 でも、初期はアバンギャルドな作風だったんだよね。そういう人が偉くなるにつれて体制寄りになっていくことはよくある話だけど、彼の場合そういうのを一気に突き抜けて、極端にポピュラーになっちゃった印象がある。

春日 俗っぽくてキッチュなイメージ。で、本人もそういうふうに見られていることを自覚していて、そこは豪放磊落に笑い飛ばしてたようなところがあったみたいだけど、俺は絶対超わだかまっていたと思うんだ。彼の死を考えると、はた目には理想的に見える最期だったとしても、本人的にどうだったかは分からないよな、と思えてならないんだよね。

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その人「らしい」死に方とは?

穂村 「死に方」といえば、小説家の中島らも(1952〜2004年)はお店の階段から落ちて死んだらしいけど、あれは言ってしまえば「あっけない死」なわけだよね。でも、彼の作品を読んでいる人間からすると、格好よく思えてくるのが不思議。

春日 彼はアルコール依存症だったんだよね。実際、足元がおぼつかなくて、階段から落ちて脳内出血で死ぬっていうケースは多いのよ。酒やドラッグで死んだロック・ミュージシャンを格好いいって思いがちだけど、実際にはゲロを喉に詰まらしたりしているわけで、それほどいいものでもないんだよね。

穂村 作家の車谷長吉(1945〜2015年)は、ウィキペディアによると「妻の留守中に、解凍済みの生のイカを丸呑みしたことによる窒息のため死去」だそうで、つい、格好いいと思っちゃった。うまく言えないけど、その壮絶具合がなんかぴったりだな、って。

春日 丸呑みしたらそりゃ詰まるだろ、って話だけど。その系譜だと、作家で俳人の久保田万太郎(1889〜1963年)は、宴会の席で赤貝を喉に詰まらせて窒息死してるよ。噛みきれなくて、つい飲み込んでしまって起こる事故だね。

穂村 知らなかった。魚介類ヤバいね。

春日 でも、赤貝はちょっと格好いいと思うな。粋だね!みたいなさ。

穂村 お寿司じゃないんだから(笑)。僕は、赤貝よりイカの方が格好いいと思うなー。実際には苦しそうでいやだけど。「こんなはずでは」と自分でびっくりするのも怖いしね。タコも危ないかな。

春日 イカよりタコの方が業が深い感じがするね(笑)。喉に詰まって死ぬといえば、あとは正月の餅とか。あれで死んだら、もはや半分喜劇みたいなもんだから、家族もやってられないだろうね。

穂村 昔、こういう死に方はイヤだな、と思ったのが、北海道に住んでいた僕の祖父の最期でさ。酔っ払って家で植木仕事みたいなのをしてて、そのまま寝ちゃって凍死したらしいの。その話を、たぶん親戚とかが話すのを聞いて知ったんだけど、当時はイヤだと思ってたんだよね。でも今になると、必ずしも悪くない死に方だったんじゃないかなと考えるようになった。

春日 その人らしい死に方ってどんなだろう?みたいなことをよく考えるんだけど、少なくとも穂村さんが酔っ払って凍死したら「らしいな」とは思わないよ。

穂村 そういう意味では、中島らもが階段から落ちて死んだのは「らしかった」よね。つまり、その「死に方」が、その人の生き方の延長線上にあるように感じられるから。
春日 ファンが想像するであろう、納得するであろう死に方そのものだもんね。

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