一方のバイデン氏については、印象があまりにも薄かったと言える。当初、民主党サイドが心配していた『ジョーは90分、立っていられるだろうか』という彼の体力と精神力(我慢)への懸念は取り越し苦労だったようだが、かといって、彼の受け答えや態度がシャープだったとは全く感じなかった。
またトランプ大統領の戦略もあったのか(それともトランプ大統領のキャラクターゆえか)止めどなく浴びせられる批判に対して答えるという【防戦】のイメージが色濃く印象に残ったので、彼の政策やトランプ大統領との差異化の強調には失敗したと思われる。
さらに、トランプ大統領から息子さんの例を挙げて非難された際には、イラクで殉死した息子とロシアやウクライナ、中国とのつながりを非難されている別の息子との話が入り混じる場面もあり、CNNなどの評論家も言うように、懸念を生じさせる受け答えだった。
ただこの点で一点、国民の心に訴えかけることが出来たのが、『みなさんと同じく、息子さんが薬物濫用で苦しんでいる』という情報のカミングアウトだろう。ここで親しみやすさと“自分たちと近い”というイメージを少しは取り戻せたかもしれない。
また、バイデン氏の場合、ヘルスケアについては、オバマヘルスケアの焼き直しなのでその説明が可能だった点は、clarityという意味では得点だったと思われるし、気候変動問題についても、パリ協定への復帰とリーダーシップの回復という点では明確さがあったような気はする。
ただ、トランプ大統領が、恐らく意図的に民主党左派との分断を図るために例示したグリーンニューディールに対する批判に対して、自らの“バイデンプラン”に言及したものの、具体的な違いに言及するところまで行かず、イメージとしては言葉足らずと得点源を逸したとの印象だ。
今回の討論会は、まれにみる荒れた・暴力的なものであり、非常にショッキングだったが、今回の勝者をあえて挙げるとしたら誰だろうか?
残念ながら誰もいない。
でも敗者がいるとしたら、それはトランプ大統領でもなく、バイデン氏でもなく、恐らくアメリカ国民だろう。何一つ具体的なアイデアも与えられず、このままいくと、どちらが大統領になっても、あまり大きなチェンジは望めないと感じたからだ。あと5週間ほどで11月3日の投票日になるが、それまでに何か大きな変化があるのか。期待と不安が入り混じった声が、アメリカの友人たちから多く聞かれる。
今回はコロナの影響もあり、恐らく郵送のballotの結果がすべて開票され、勝者が決まるまでしばらくかかると見込まれるため、アメリカ国民と全世界を巻き込んだトランプとバイデンの戦いと罵りあいは、世界をより一層混乱に陥れることになるかと思う。
image by:Ron Adar/Shutterstock.com