2兆3,000億円もの負債を抱え倒産し、誰もが「復活は不可能」と見ていたJALを見事に立て直した京セラ創業者の稲盛和夫氏。ドラマ『半沢直樹』の帝国航空のモデルと言われるJALを、稲盛氏はいかにして再建したのでしょうか。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、同社刊の『JALの奇跡』で描かれた、ある象徴的なエピソードを紹介しています。
稲盛和夫氏がパイロット候補生と交わした約束
大きな話題を呼んだテレビドラマ『半沢直樹』。その中で描かれた帝国航空のモデルとされているのが“JALの再生”です。
2018年に弊社から刊行された『JALの奇跡』にはその再生の軌跡が、当事者の立場から熱く、リアルに描かれています。
絶対不可能といわれたJAL奇跡の再建は、いかにして成し遂げられたのか?本書から内容を一部ご紹介いたします。
パイロットの卵たちを感激させた稲盛さんの本気
JALは毎年多くのパイロット志望の社員を入社させていた。しかし路線の大幅な縮小に伴ってパイロットの数も減らさざるを得なくなり、パイロットの希望退職を募ると同時に、パイロットを目指して入社した方々に対する訓練を中止し、地上勤務についてもらうことになった。そのためパイロット候補生たちは文句たらたらだった。
無理もない。彼らは子供の頃からパイロットを目指して勉強を重ね、難関の試験を突破してJALに入社したのである。いよいよこれからパイロットとしての訓練が始まると期待を胸に膨らませていたら、訓練は中止、再開の見込みもないと言われ、パイロットの業務とは直接関係のない仕事を命じられたのである。先輩はちゃんとパイロットになっているのに、自分たちの代から止まってしまったというのだから戸惑いも怒りもあっただろう。
彼らが文句ばかり言って困っているという報告が現場から何度も上がってきており、稲盛さんも「どういう対応をしているんだ」と心配をしていた。
「どうしようもないので、とにかく我慢してほしいと話していますが、なかなか理解をしてくれないので困っています」
と幹部が言うと、
「幹部が逃げ回っていたら解決できるはずはない。一度みんなを集めてほしい。自分が直接話をする」
とおっしゃった。そして簡単な立食のコンパをすることになった。
コンパに参加したパイロットの卵たちは40、50人もいたと思うが、早速何人かが稲盛さんに近寄り、
「我々はパイロットを目指してJALに入社したのに、いつになったら訓練に入れるのですか。それも知らされないまま他の仕事をさせるというのは、おかしいのではないですか」
と訴え始めた。
すると稲盛さんは、
「馬鹿か、お前は。JALの経営状況がどうなっているかわかっているだろう。パイロット一人育てるためには多額のコストがかかるのだから、すぐに再開できるはずがない。お前のためにJALがあるのではないんだ。まずはJALの再建のために一緒に頑張ろうじゃないか。再建が順調に進めばパイロットの訓練は必ず再開する。それまでは今の職場で頑張ってほしい」
と話した。しかし、彼らも自分の人生を懸けているから簡単には納得せず、激論が続いた。こうして何人かのメンバーと厳しいやりとりが続いたが、稲盛さんは一人ひとりと真摯に向き合い、相手の話を丁寧に聞き、自分の思いを伝えた。
コンパの終わりの時間が近づくと、稲盛さんは激論を繰り広げた相手のコップにビールを注いで回った。そして
「まあまあ、そう怒るな。お前たちの言い分はよくわかっている。苦労をかけて申し訳ないな。でも会社の事情も理解してくれよ」
と、さっきまで真っ赤な顔で怒っていたのに今度はニッコリと笑って、「頑張れよ」と声をかけた。相手は黙って頷いていた。