菅政権の戦前回帰と言論封殺。任命拒否は日本に2度目の敗戦をもたらす

 

敵か味方かを分け、敵とみなせば徹底的に排斥する。そんな怖い人物が、何の因果か、この国の総理大臣になった。

とりわけ日本学術会議について、菅首相は複雑な感情を抱いていたのではないだろうか。内閣府の特別機関の一つであり、会員を総理大臣が任命する組織でありながら、政権批判をする学者が目立つことへの憤りのようなものだ。

集団的自衛権行使を容認する憲法解釈変更と新安保法制に対して、反対運動を繰り広げた広渡清吾氏は日本学術会議の元会長だったし、佐藤学氏も同会議の役員であった。

防衛省が軍事研究に資金を出す「安全保障技術研究推進制度」に対する日本学術会議の姿勢に、自民党国防族らが反発しているという要素も、菅官邸の判断を左右した面があろう。

日本学術会議は、2017年3月、以下のような声明を出した。

日本学術会議が1949年に創設され、1950年に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明を、また1967年には同じ文言を含む「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発した背景には、科学者コミュニティの戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念があった。近年、再び学術と軍事が接近しつつある中、軍事的な手段による国家の安全保障にかかわる研究が、学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあることをここに確認し、上記2つの声明を継承する。

同制度は、軍事転用可能な民生研究の発掘を目的に2015年度にスタート。

当初は3億円の予算だったが、自民党国防族の要求で、17年度には110億円に跳ね上がった。

国立大の運営費交付金が削られ、私立大学も、大学数は増えるのに補助金の総額が増えず、いずれも苦しい運営を強いられている。

喉から手が出るほど研究費が欲しい学者の足元を見て、軍事関連の研究になら資金を出しましょうという政策は、学問の自由をゆがめるもとになるのではないだろうか。

そして、現実に日本の大学の研究力は年々劣化し、世界大学ランキングにおける順位下落に歯止めがかからない。

日本学術会議については、権威主義的傾向を指摘する声から無用論まで、今回のことをきっかけに飛び交っている。しかし先述したように、その問題は別に議論すればよいことだ。

学者を委縮させ、特定の実用的分野に群がらせるように企図する国家の将来は、とても明るいとは思えない。

image by: 首相官邸

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