e-Taxは隠れ蓑。日本のデジタル化を「無類の紙好き」国税庁が阻んでいる

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一部の趣味人や職業人を除けば、写真はデジカメで撮ってSNSなどで共有して楽しむもので、プリントしてアルバムに収めるものではなくなりました。このように、デジタル化の1つの完成形態は「出力しないこと」と説明するのは、メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんです。そして山崎さんは、数ある役所の中でも、法律上の権限を行使し紙での出力を強く求めるのが「国税庁」であり「税務署」であると指摘。税務調査などで紙での提出が要求されるこの悪しき慣習を打破できるかが、デジタル化のカギになると述べています。

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デジタル化のこと

「デジタル庁」。如何にもデジタル化が遅れた国の組織っぽい名前だ。もう少し気の利いた名前はないものかと自分でもいろいろと考えてみたりもしたが、どれもどこかSFっぽくなる。取り敢えずは分かり易い「デジタル庁」で良しとしておこう。

それにしてもデジタル化という言葉を聞くようになってから随分と経つ。例えば今、普段の会話で「カメラで撮る」といった場合、まず思いつく機器はスマホかデジカメである。ここでそれらの機器を差し置き第一にフィルムカメラを挙げる人は最早いないのではないか。

さらにそうして撮った写真もデジカメ全盛期にはプリンター等で出力して所謂「写真」としていたが、今ではスマホからSNSに上げるといった具合に写真の概念そのものが変わって来ている。デジタル化の完成形態の一つは出力しないことである。これを今、書類にまで拡げようと言うのである。

然るに現状はどうかと言うと、例えば法人の税務記録などは税務当局の要請があれば速やかに紙にして出さなければならない、といった旨の法令があることからも分かる通り、飽くまで記録の真の形態は紙であり、電磁記録はそれらを保存するために一時的に許された仮の形態に過ぎない、という思想である。

これは技術の問題とは全く関係がない。便利・不便の問題でもない。敢えて言うなら慣習あるいは因習とでも呼ぶべきものであろう。そもそもプリントアウトされた税務書類とUSBメモリやHDD等で提出される税務記録との間に内容的な違いはあり得ない。もし、あるとしたら偽物は紙の方である。主副の序列を付けるとしたら原始の形をより残している筈の電磁記録の方こそ主たるべきなのである。実際、後に改ざんしたものならプロパティを開けば直ぐに確認ができる。

ただ税務当局が保守的傾向を有するのはある意味当然のこととも言える。というのも、納税記録はそれが個人であれ、法人であれ、重要なのは連続性であり、その連続性は税務当局の保守性により、強固に守られているものであるからだ。例えば住民税は翌年課税であるし、法人の消費税納税義務は(原則として)売り上げが1000万円を超えた事業年度の2年後より発生する。税務において連続性というものが如何に重要かが分かると思う。

こう考えると、政府が今進めようとしているペーパーレス化(デジタル化)の最大の抵抗勢力は実は国税庁とその下部組織である税務署なのではないか、とさえ思えて来る。税務署はある意味国内最強の役所である。ここに一元的に任せておけば年金や健康保険料の未納問題も起こらなかったのではないかと思いたくなるほどにである。ここがそう易々と変化を受け入れるとは到底思えない。納税の一手段に過ぎないe-Taxなど物の数ではない。税務当局の基本思想に関わる問題である。

しかし逆に言えば、ここを落とせれば一気呵成に事は進むかもしれない。国vs最強の役所。注視していきたいものである。

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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