日本で「ワクチン報道」ほぼ無しの異常。否定派の閣僚級人物が影響か

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新型コロナの感染拡大が止まらない日本ですが、海の向こうのイギリスではワクチンを緊急承認し、7日から大規模な接種が開始されました。また、現時点で感染者数が世界一となっているアメリカでも承認が秒読み段階となっており、容認派と懐疑派による議論が盛んにおこなわれているようです。しかし、日本ではワクチン報道は冷ややかで、大きな議論も巻き起こっていないようです。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが米国での現状を紹介しつつ、21年に五輪開催国となる日本でワクチンの議論が盛り上がらない現状を問題視。閣僚級の人物がワクチンに否定的との報道もあり、日本人のワクチン接種率の低下に不安が残るとしています。

極めて心配な、日本のワクチン問題

12月に入って、まず英国が「ファイザー・ビオンテック連合」による新型コロナのワクチンについて緊急承認を行い、現地時間の7日から大規模な接種が開始されました。ワクチンはベルギーで製造され、英国へは陸路と空路で輸送されたようです。

英国の国民保健サービス(NHS)によれば、最初に接種を受けるグループは、80歳以上の高齢者と医療従事者、介護従事者だそうで、全国にはワクチン接種センターが開設され、このセンターは今後全英で1000箇所まで拡大されるということです。

アメリカの場合も承認は秒読みであり、この「ファイザー・ビオンテック連合」のワクチンと、「モデルナ」のものが一週間前後で緊急承認されると、全米で接種が開始されます。

アメリカは、ワクチン接種の詳細な実務はそれぞれの州が担当することとなっていますが、例えばテキサス州などでは「接種の予行演習」が本格的に実施されています。大きな駐車場にレーンを作って、ドライブスルー方式で順番に「個人情報の確認」「検温と消毒」「接種」を流れ作業で行う訓練です。

各州には今後、この2つのワクチンについては、承認を見込んでどんどん輸送がされていき、承認と同時に接種がスタートする見込みです。

それとともに、ワクチンの治験を行った人の体験談などが報じられるようになってきました。例えば、接種は1ヶ月の間隔を開けて2回行うわけですが、1回目は何もなくても、2回めには倦怠感が出たという例があるそうですし、また発熱という反応が出たケースも数パーセントはあるようです。いずれについても、製薬会社も国の保健当局も想定内としています。

それでも、アメリカの場合は「バクサー」と呼ばれる「ワクチン懐疑派」の世論はかなりあります。その多くが高学歴で、東海岸やカリフォルニアなど民主党カルチャーの強い地域に多いと言われています。環境問題を気にする心理とどこか通じているという説があります。

ですから、仮に大統領選の前にワクチンを承認すると、トランプが選挙に勝つために強引に承認したという印象が広まって、大規模なワクチンへの不信とか嫌悪・拒否という現象が起きる危険があったわけです。正式には誰も認めていませんが、結果的に選挙後に承認となったのには、そうした要因もあったようです。

もっと言えば、民主党カルチャーの中には「最先端の技術を理解した上で信じる」グループと、「まず自然を大事にして人為的な技術は疑う」というグループがあるわけです。一方で、共和党カルチャーの中には「マスク無しの日常に戻るために一刻も早くワクチンを」という声と、同時に「何もかも信じやすい」グループ、そして「何もかも疑うグループ」などがあります。

また共和党の場合は「開拓精神による自主独立」というカルチャーを引きずっているために、強制接種(あるいはそれに近い動き)には、反対の声が出てしまうという傾向もあります。

クリントン、ブッシュ、オバマという歴代大統領3名が、承認と同時に接種をして、その光景をTV中継すると申し出ているのは、両党支持者の中にあるネガティブな反応を抑え込むためのようです。

問題は、副反応の可能性ですが、大手のメディアは「ある程度身体が反応するのは、ワクチンが効いている証拠」だから「心配ない」という報道を繰り返しています。また、テキサスでの予行演習では、接種後には全員が15分間駐車場で待機して、健康に異状が見られたらムリに運転をしないで看護師を呼ぶという運用の訓練もされていました。

また、接種後に副反応が起きた場合に「適切な処置を行う」と同時に「パニックになってネガティブな情報を拡散しない」ように、健康状態を追跡するアプリへの登録を義務付けることになっています。

とにかく、ワクチン接種というのは、個々の接種者を守るだけでなく、社会全体に免疫の壁を作り上げて、ウイルスの伝染を徹底的に囲い込んで、最終的には収束させるのが目的です。そのためには、70%(諸説あります)という接種率を実現しなくてはなりません。ですから、政府もメディアも必死になっているのです。

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