議会乱入は米国の自死だ。世界が目撃する民主主義ご臨終の始まり

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全世界に衝撃を与えた、トランプ支持者による連邦議会突入事件。大統領自身が暴徒を煽ったクーデタとも報じられていますが、別の見方もあるようです。当暴動を「アメリカの自傷行為」とするのは、ジャーナリストの高野孟さん。高野さんはメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で今回、そう理解せざるを得ない理由を記すとともに、民主主義は下り坂にあり、その終焉を見届けるしかないという識者の見解を紹介しています。

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※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年1月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

暴走し自壊する米国の民主主義――トランプ流ポピュリズムの無残な末期

トランプ米大統領が支持者を煽動して連邦議会に突入させた事件は、現職大統領による自国に対する「クーデタ未遂」という世にも珍しい出来事と呆れられた。文筆家の諸岡カリーマは1月16日付東京新聞のコラムで、衝撃を受けた米国の政治家たちが「バナナ共和国や第三世界の国のできごとのようだった」と論評していることに反発し、バナナの中南米にせよ第三世界の中東にせよ「民主的に選ばれた政権がアメリカの息のかかったクーデタで潰されてきた歴史を忘れてもらっては困る。こんなジョークがネット上に出回った。『コロナ禍の渡航制限により、アメリカはお家芸のクーデタを、やむなく国内で実施した』」と書いた。

その通りで、民主主義の本家を僭称する米国は、世界のあちこちにCIAの秘密工作班や大掛かりな軍隊を送り込んで気に入らない政権を暴力的に転覆し、その瓦礫に米国流民主主義の白い花を植え付けることを自らの「天命(マニフェスト・ディスティニー)」と見做してきた。このような、民主主義を唯一絶対の超越的価値であるかに奉ってそれを全世界に普及することが使命であると思う一神教的な誇大妄想は、コロナ禍のせいというよりも、それ以前に世界資本主義のグローバル化の終焉という歴史的制約のために、もはや行き場を失って自国へと逆流し、議事堂の玄関に流れ込んだのである。

帝国としての米国が、(かつてゴルバチョフが旧ソ連をそうしたように)その帝国性を自ら解体して、「超」の付かない単なる「大国」の1つとして国際社会の中にそこそこの「居場所」を見つけることが出来ずにのたうち回った挙句、自傷行為に走ってしまったのがこの姿である。

民主主義の壊し方

米国がさんざん活用してきたのは、古典的な軍事クーデタだが、これは近頃はもう流行らない、とケンブリッジ大学政治学教授のデイヴィッド・ランシマンは言う(『民主主義の壊れ方』、白水社、2020年11月刊)。軍事クーデタは目に見えて民主主義を葬るやり方だが、それに対して選挙や国民投票などを行い、口では民主主義と言いながら、時間をかけて権力者が思うままに力を振るうことが出来る体制を作り上げてしまうクーデタもある。「これは民主主義にとって21世紀最大の脅威であり、インド、トルコ、フィリピン、ハンガリー、ポーランドなどの国に見られる。そしてアメリカでも同様のことが起きている可能性がある」(ランシマン)。

彼が本書を書いたのは2018年なので、米国については「可能性」としているが、今なら彼も「同様のことが起きた」と断言するのを躊躇わないだろう。なお私にはプーチンのロシアもこのソフトなクーデタの典型だと思えるが、なぜかここに列記されていない。

あるいはまた、安倍晋三前政権の官邸主導の「一強」体制というのもそのソフト・クーデタの別の異変種で、それが今の菅義偉政権にも引き継がれているのかもしれない。

分かりやすいのはトルコの場合で、同国では2016年7月15日(またも!)軍部のクーデタが起きた。主要道路は戦車で塞がれ、放送局も占拠されたが、エルドアン大統領は身を隠してソーシャルメディアで国民に決起を呼びかけた。それでクーデタは僅か12時間で鎮圧され、エルドアンは圧倒的な支持を得たのだが、それをいいことに彼は「軍政の脅威を防ぐ」との名目で大統領権限を次々に強化し、翌年にはそれを法的に裏付けるための国民投票を提起し、僅差で勝利した。これは、民主主義の下で民主主義を実質的に転覆する非軍事クーデタの成功であり、人々はその引き金となった余りにもあっさりと鎮圧され失敗させられた軍事クーデタが、実はエルドアンが陰で糸を引いたヤラセだったのではないかと疑った。

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