議会乱入は米国の自死だ。世界が目撃する民主主義ご臨終の始まり

 

ポピュリズムが招く陰謀論

ソフト・クーデタの下地を耕すのはポピュリズムである。ポピュリズムの定義はいろいろだが、自分たち一般大衆の不安や不満が晴れないのは、密室で談合する一部のエリート層が国を牛耳っているからだと捉えるので、いとも簡単に陰謀論に絡めとられる。とりわけ経済不況が長引き格差が拡大してフラストレーションが鬱積しているような時には、16年の大統領選挙がそうであったように、「オバマは米国市民ではない。君たちの声が政治に届かなかったのは、彼が外国人だからだ。ヒラリーはそのオバマの仲間だ」といった幼稚極まりないトランプのツイートに人々が飛びつき、熱狂し、「全てが分かった」ような気分に酔うのである。

相手の民主党も、あの時は、トランプを操っているのはロシアだという別の陰謀論で対抗しようとし、そうするとトランプもまた「いや、ロシアのヒモが付いているのは民主党だ」と切り返して、何が何だか分からなくしてしまった。

何が分からないのかについて、ランシマンは言う。「民主主義の成功は常に失敗と背中合わせであり、そのリスクも民主主義が成立する条件なのだが、ただし、それは20世紀の西欧民主主義の話である。現在の先進民主主義国には当てはまらない。21世紀は、民主主義が果たして機能しているのか、またはいないのかが分からない状況で、どこまで存続しつづけるのかという実験の時代になるかもしれない。本当に大惨事が起きれば、そこで実験は終わる。……災害がすべてを解決してくれると期待することは、世界の終わりを待つようなものである」

成熟期が過ぎた「中年の危機」

米国の民主主義は1776年の建国の時から始まっていると考える人も多いかもしれないが、奴隷制を持つ制度を民主主義と呼ぶことは出来ない。20世紀に入り、女性解放運動が起こり、さらに公民権運動があってようやく現代的な意味での民主主義が確立された。「そのように考えると、アメリカ民主主義の歴史は100年を経ておらず、せいぜい50年か60年と考えられる。……言うなれば、中年といったところだろう。古代アテネの民主政は200年の間存続した。アメリカ民主主義の歴史はその半分にも満たない」とランシマンは言う。

その意味で成熟した民主主義は最盛期を過ぎて下り坂にあり、それが最も成功を収めた米国の地で終わりの時を迎えようとしている。しかし、まだ多くのことが起きる可能性があり、残り少なくなってからの人生が最も充実するということもないではない。民主主義がある限り、それを維持しつつ、この「中年の危機」を乗り越えていくべきである。とはいえ、それが若返って再生することはないので、どういうふうに終焉するかを最後まで見届けるしかない。それがランシマンの結語である。

我々は今、ワシントンの有様を見て、民主主義のご臨終の長く続くかもしれない始まりを目撃しているということである。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年1月18日号より一部抜粋・文中敬称略)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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