熱い値下げ合戦が報じられているスマホ業界ですが、年明け早々に、元ソフトバンク社員が「5G」などの営業秘密を持ち出して楽天モバイルへ転職し逮捕されたという衝撃的なニュースが飛び込んできました。楽天側は持ち出された情報を利用したという事実は確認されていないとしていますが、果たして真相はどこにあるのでしょうか? ケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんは、自身のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』で、楽天モバイルが今年「5年前倒しで全国エリア展開できた」と発表しても、「その情報を使ったのでは?」と疑われないためにも身の潔白を証明すべきだと述べています。
楽天モバイル社員がソフトバンクの機密情報を盗んで転職の衝撃
1月12日、ソフトバンクは「楽天モバイルへ転職した元社員の逮捕について」というリリースを発表。退職申告から退職までに営業秘密に該当するネットワーク技術情報を不正に持ち出していたことが2020年2月に発覚。1月12日に警視庁に不正競争防止法違反の容疑で逮捕されたという。
容疑者は「線路主任技術者」という国家資格保持者で、通信ネットワーク管理を担当していたという。
新聞やテレビの報道では「5Gの基地局」が、時節柄、話題性があってクローズアップされているが、そもそも5Gに限定した話ではない。
容疑者は、基地局と交換局を結ぶネットワークの設計や管理などを行っていたようで、基地局の場所を知るだけなく、ダークファイバーがどこにあるか、ネットワークがどれだけ使われているかの情報を知る立場にいたようだ。
つまり、容疑者が持ち出した機密情報の中には、基地局を新規に建設するにあたり、どこにソフトバンクの基地局があり、地権者に交渉しやすいか、とか、どのあたりに建設すれば、ファイバー網との接続が効率的に実現できるかなどのデータがあった可能性が高い。
確かに新規参入でイチから基地局を建設してかなくてならない楽天モバイルにとってみれば、喉から手が出るほど欲しい情報かもしれない。
今回の報道を受けて楽天モバイルでは「社内調査を徹底しており、現時点までに、当該従業員が前職により得た営業情報を弊社業務に利用していたという事実は確認されておりません。また5Gに関する技術情報も含まれておりません」と山田善久社長名義で発表を行っている。
常識的に考えれば、楽天モバイルが組織的に転職してくる容疑者に対して、情報を持ち出すように指示したというのはあり得ないだろう。となると、容疑者が、転職先で評価されたかったために、勝手に手土産を持参したと考えるのが自然かも知れない。とはいえ、一部ではデータが楽天モバイル社内のサーバーに保存されていたという報道もあり、常識が覆されることもゼロではない。
仮に容疑者が機密情報を自分で活用していたとしても、その情報がありながら、楽天モバイルの5Gエリアが都内は二子玉川周辺しか対応できていなかったことを考えると、そもそも、たいした情報じゃなかったのかも知れない。
ソフトバンクの基地局情報に関しては、昨年にもロシアのスパイに流出させたという事件もあり、これで2回目となる。今回の報道によれば「自宅から会社のパソコンにつなぎ、メールに機密情報を添付して自分のアドレスに送付した」といい、セキュリティ面でかなり甘いと言わざるを得ない。
一方、今年、楽天モバイルが「5年前倒しで全国エリア展開できました」とアピールしても「それって、ソフトバンクの情報があったからでしょ」と突っ込まれかねない。楽天モバイルは、なんとしても身の潔白を証明しなくてはいけないだろう。
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