だが、湯崎知事は、広島市での80万人検査を決行するかまえを崩さない。
問題は方法だ。それだけ大人数の検査をどうやってこなすのか、まだ詳細は発表されていない。市内2カ所にあるPCR検査センターを拡充するといっても限度があるだろうし、一度に多数の検体を調べ、陽性反応があったグループのみ個別検査するプール方式を採るにしても、80万人分ともなれば作業量は膨大で、スタッフを揃えるのが大変だ。検査を拡充せよと言い続けてきた筆者としては、期待が大きい分、不安もぬぐえない。
迅速かつ大量に検査する方法はないものか。そう思っていたところで耳にしたのが、ノーベル賞受賞者、本庶佑・京大名誉教授の提案だ。
「神戸市のメーカーが開発した自動PCR検査システムなら、1,000台用意すれば1日250万件の検査が可能です」
テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』で、本庶氏はそう語った。
この日、本庶氏は大隅良典東京工大栄誉教授とともにリモート出演し、山中伸弥京大教授、大村智北里大特別栄誉教授を含む4人のノーベル賞学者による共同声明を発表した。その中身は概ね、以下の通りだ。
医療機関と医療従事者への支援の拡充▽PCR検査能力の大幅な拡充と無症候感染者の隔離の強化▽ワクチンや治療薬の審査・承認は、独立性と透明性を担保しつつ迅速に▽科学者の勧告を政策に反映できる制度を確立する。
このうち、PCR検査の大幅拡充について、本庶氏は歯切れ良く持論を展開した。
「いまだに検査数が少ない。中国のように地域ごと全検査・隔離するのが理想だが、現実的に日本では難しい。だから、少なくとも感染したのではと思ったら即座に検査を受けられる体制を作るべき。今、業界支援という形で何兆円もばらまいているが、検査にお金を使うほうが断然コスト的にも社会的にも有効だ」
そして、具体的な大量検査の方法として紹介したのが前述の自動PCR検査システムだ。
「神戸の会社で開発されている自動PCR検査システムを搭載したトレーラーなら、12時間で2,500件、1,000台用意すれば1日250万件の検査が可能だ。1台1億円ほどなので、1,000億円で実現できる。無症状感染者の隔離によって、宿泊先のホテルや、食事を届ける飲食業界、生産者にもプラスになる」
どうやら、川崎重工業が検査機器大手のシスメックスなどとともに開発したシステムを指しているようだ。8つのロボットからなり、そっくりトレーラーに積載して移動できる。検体採取から分析、陰性・陽性の判定までをロボットが自動で行うため、受付から結果通知まで80分ほどですみ、検査料も抑えられるという。まずは空港での実用化をめざしているようだが、12時間で2,500検体もの処理ができるとなれば、広島で計画されているような地域一斉検査にも威力を発揮するのではないだろうか。
こういう大規模検査には国の支援が欠かせないが、問題は、先述したように、政府が無症状感染者の発見に消極的であることだ。