トランプはなぜ支持者を洗脳できたのか?その分断と煽りの手口、米国民の4割は今も現実歪曲空間にいる

 

その人たちとは、米国にまだたくさんいる白人労働者階級の人たちです。

この階級は、米国が自動車産業を中心に急成長をしていた時に作られた製造・製鉄・炭鉱・運送などで働く人たちから構成される中産階級ですが、多くのものが海外で作られるようになるにつれ、縮小し・弱体化し、次第に下層階級へと押しやられてしまったのです。

西海岸のエリートたちからは、「レッドネック(日焼けした首)」と蔑まされている人々です。

同時に米国では、メキシコから大量に来ている移民が、喜んで最低賃金で働くため、それが白人労働者たちの賃金に下向きの圧力をかけているという事実があります。

彼らの多くが大学の卒業資格を持たない保守的なキリスト教徒の白人で、民主党が推し進める、同性愛結婚や人工中絶の自由化には反対の立場をとっています。

本来ならば、彼らを守るべきなのは、資本家よりの共和党よりも労働者よりの民主党であるべきなのに、同性愛結婚や人工中絶などの文化的な面で対立してしまっている上に、民主党が地球温暖化対策のような、重要だけど短期的なメリットが見えにくい問題に力を入れていることが重なり、彼らの中に「民主党は西海岸のエリートのことばかり見ている」という印象を植え付けてしまったのです。

この状況に目をつけたのがドナルド・トランプ氏だったのです。

トランプ氏は、「メキシコとの間の壁」「移民の排除」「地球温暖化は嘘」などの、分かりやすいメッセージで白人労働者階級の心をしっかりと掴み、彼の熱烈なファンにすることに成功してしまったのです。

同時に行ったのが、Facebookなどのターゲット広告を巧みに利用した民主党と(対立候補の)ヒラリー・クリントン氏に対する徹底的なネガティブ・キャンペーンで、それにより、2016年の大統領選に勝利を納めたのです。

2020年の大統領選では、バイデン氏に敗北してしまいましたが、2016年と同様の選挙活動を、現職大統領という地位を最大限に活用して行ったため、トランプの主たるサポーターである白人労働者階級はトランプ氏をより崇拝するようになり、かつ、「民主党が政権を取ると米国は社会主義になってしまう」というデマを信じるようになってしまいました。

さらに彼らは、トランプ氏がひたすら言い続けた「バイデン陣営は不正選挙によって選挙に勝った」という主張を頭から信じており、それが議事堂への乱入事件へと繋がったのです。

そこまでトランプ氏を熱烈に崇拝する人は、米国の人口の2割程度だと思いますが、民主党を嫌悪するまでに洗脳されてしまった人も含めると、米国の人口の4割近くの人たちは、トランプ大統領が作り出した「現実歪曲空間」の中にいまだにすっぽりと包み込まれているのです。

バイデン氏は、トランプに票を入れた人々も含む、全ての米国人の大統領であることを就任演説で宣言しましたが、その言葉がトランプファンの心に届いたとは私に思えないのです。

トランプ氏が作り出した、この「保守・リベラルの分断」は、COVID-19が助長した「貧富の分断」と共に、バイデン政権による国の運営を難しくすると見て間違いないと思います。

中島聡さんのメルマガご登録、詳細はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • トランプはなぜ支持者を洗脳できたのか?その分断と煽りの手口、米国民の4割は今も現実歪曲空間にいる
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け