総務省の秋本情報流通行政局長が、昨年12月10日、六本木の小料理屋で、菅正剛氏らの接待を受けたさい、複数の文春記者が客として入店し、ひそかに録音していた。以下は、東北新社の部長にして株式会社囲碁将棋チャンネルの取締役でもある正剛氏と、同じく子会社の東北新社メディアサービス社長、木田由紀夫氏が、秋本局長と交わした会話だ。
正剛氏「今回の衛星の移動も……」
木田氏「どれが?」
正剛氏「BS、BS。BSの。スター(チャンネル)がスロット(を)返して」
木田氏「あぁ、新規の話?それ言ったってしょうがないよ。通っちゃってるもん」
正剛氏「うちがスロットを……」
木田氏「俺たちが悪いんじゃなくて小林が悪いんだよ」
秋本氏「そうだよ」
木田氏「俺たちは別に逆らえないからやっただけで。だから手伝うところ手伝っているけど」
正剛氏「次の有望株なんですから、小林」
秋本氏「いやぁ、でもどっかで一敗地に塗れないと、全然勘違いのままいっちゃいますよねぇ」
この会話をどう読み解けばいいのか。ポイントは「小林」だ。17年8月から翌年10月まで総務政務官だったNTTドコモ出身の小林史明衆院議員のことであるのは間違いない。
小林議員は総務政務官だった当時、BS帯域の再編に人一倍熱心だった。テクノロジーの進化で、画質を保ったまま電波帯域を圧縮することが可能になったため、空いた帯域を放送会社から国に返してもらって、そこに新規参入を促すという政策の推進役をつとめていた。
「スター(チャンネル)がスロット(を)返して」という正剛氏の発言は、東北新社が空き帯域を国に返上したという意味であろう。昨年11月30日以降、「スターチャンネル」など既存のチャンネルは、使わずにすんでいるスロット(帯域)の返還を迫られている。おそらくこの会食は、返還した直後のタイミングだったのではないか。
総務省は、既存の衛星放送事業者の「自主返上」によって空いたとするBSの周波数帯域で、新規参入事業者を公募。9社から応募があった。
19年9月、電波監理審議会へ諮問した結果、吉本興業、ジャパネットホールディングス、松竹ブロードキャスティングの子会社の3事業者が認定された。3つのチャンネルは21年末に放送開始の予定だ。
木田氏は、逆らえないからスロットを返した、それは「小林が悪い」のだと愚痴を言い、「秋本さんらは悪くない」の含意を感じ取った秋本氏が「そうだよ」と同調。
正剛氏が「有望株ですから」と皮肉まじりに小林を持ち上げたのに反応して、「一敗地に塗れないと、全然勘違いのままいっちゃいますよ」と、秋本氏は、2人の機嫌を取るように言う。そんな情景が、この音声から浮かび上がってくる。