退屈な国ニッポンの元凶、大企業が続ける「新卒」至上主義の限界

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コロナ禍で学業に支障が出た学生もいれば、大幅な売上減により採用活動をやめる企業もあり、学生たちの就活に大きな影響が出ています。その状況を象徴する「この3月の卒業生に限り新卒扱い」との特例措置が、同時に日本社会のいびつさを浮き彫りにいていると問題提起するのは、メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんです。山崎さんは、名だたる企業が新卒採用のみに価値を置くことによる弊害と限界を数々上げ、コロナ禍を機に見直すべきと提言しています。

二度目のこと

3月も下旬になると卒業式の類も一通り終わり、いよいよ4月からの新生活に向けての準備を始める頃合いであろう。今さら言うまでもないことだが、この1年は何をするにも大変な1年であった。その中にあって、自分の目指す通りに就職や進学ができた人はもちろん、思い通りに行かなかった人も同様に立派である。

そう思いつつもやはり厳然たる事実がある。日本という国は先進国の中では不気味なほどセカンドチャンスというものを認めない国なのである。唯一例外的なのは(つまり社会的に認められているのは)大学入試における浪人(それも一浪)ぐらいであろう。一般人がそれ以外のことで2度目のチャンスを貰える機会はほとんどないように思える。

企業の採用条件一つ取ってみても、新卒と既卒では同じ大学の同じ学部で同じくらいの成績を収めていても雲泥の差がある。一部の企業はコロナ禍の現状を鑑み「今年3月卒業者に限り来年度採用に関しても新卒者と見なす」といった特例措置を発表しているが、そもそもこの物言い自体、既卒者(いわゆる就職浪人等)に対して企業が(というより社会が)如何に排他的であるかを雄弁に物語っているように思うのである。

それは社会に出てからも同じで、企業間のヘッドハンティング等を除けば転職をすればするほど給与や福利厚生などの待遇は悪くなるというのが一般的な認識であろう。これに例えば1年くらいのブランクがあれば再就職は極端に困難になってしまう。

それゆえ基本的には、誰もができるだけ同じ会社に勤め続けようとするし、社会全体もそういう人を「長続きのする人」「辛抱のできる人」として高く評価する。結果として人材の流動性がなくなり、ガチガチに凝り固まった面白くもない退屈な社会が出来上がってしまう。悪循環ならぬ、悪停滞である。

そもそも、大学卒業年齢といえば22、3である。さらに高卒ともなれば18である。たかだかそれくらいの年齢で、自分の将来を全て見通すような職業選択が出来るものであろうか。自分自身や周囲の人たちのことを思い出してみても、余程の人以外はまずもって不可能なのではないだろうか。

人は成長する。だが成長とは必ずしも社会人として落ち着いて行くことを意味しない。成長とは即ち、変化して行くことなのである。だから人によってはただただ散らかって行くだけの変化もある。そういった種々の変化をどれだけ受容できるかが、その国の、その社会の、寛容さの指標となると思う。しかるに日本はどうであろう。この点に関しては、実に「イントレランス」な国である。

少子化が進む一方の日本で、これでいい筈がない。「優秀な働き手を求む。ただし新卒者に限る」こんな理屈が通用する訳がない。

現下のコロナ禍にあって、従来の社会のあり方がいろいろと見直されようとしている。これを機に「新卒は良し、既卒はダメ」といった、見ようによっては薄気味の悪い新しもの好きをやめたらどうだろうか。

新古・中古にもいいものや値打ちものはたくさんある。ただそれが分かるほどの目利きがいないだけのことである。仮にも一企業のHR担当を名乗るからには、それくらい見極められる審美眼を是非とも養ってもらいたいものである。

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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