秋葉原通り魔事件から13年。あの頃よりも生きづらくなった日本の病理

kawai20210609
 

2008年6月8日に発生し、日本中に衝撃を与えた秋葉原通り魔事件。犯人が無差別殺人に走った要因のひとつに、「派遣社員」という身分があったのではないかとする声もありましたが、あれから13年が経った今、状況は改善されたのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では著者で健康社会学者の河合薫さんが、依存する人間を切り捨てる風潮の強い現在は、むしろあの頃より不健全な社会になってしまっていると分析。その上で、国民の方向を見ない「政治屋」ばかりの日本にどんな未来があるのかと、悲観的な質問を投げかけています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

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秋葉原通り魔事件13年後の「社会の変化」

2008年、当時25歳で派遣社員だった男が、秋葉原の交差点にトラックで突っ込み、人をはね、持っていたダガーナイフで無差別に歩行者を切りつけた「秋葉原通り魔事件」。7人が死亡、10人が重軽傷を負った「あの日」から13年が経ちました。

殺人罪などに問われた男は、15年2月に上告が棄却され、1、2審の死刑判決が確定しています。

この事件は白昼の繁華街で起きたことから、誰もが「自分がそこに居合わせた可能性」に震え、日本中が恐怖に包まれました。その一方で、男のSNSでの書き込みや思考に一定の「共感」を示す人たちが少なからずいたのも事実です。

世間やマスコミの関心は男の「派遣社員」という身分に集まり、負け組、社会的孤立、学歴、容姿への自己評価にスポットをあて、男の「誰かに認められたい」という欲望が満たされずに犯行に至ったのではないか、という議論が展開されました。

「誰でもいいから殺したかった」という自己中心的な犯行動機で、他人の命を奪うなど、絶対に許すことなどできません。しかしながら、当時はリーマンショックで派遣切りが社会問題化していたことも重なり、「氷河期世代のテロ」とも言われました。

あの頃は、非正規、契約社員、派遣切り、など、「正社員」という身分から切り離された雇用形態への関心が高かった。「格差」という2文字に誰もが反応した。「賃金格差を許すな!」「雇用の調整弁にするな!」という怒りが、社会のあちこちに渦巻いていました。

思えば…あの頃は健全だった。「おかしいことはおかしい」と怒りを露わにする空気が、社会にあふれていたように思います。

しかし、今はどうでしょうか。“こちら側”にくい止まっている人は、“あちら”を見ようとせず、“あちら側”でなんとか生き抜いている人たちでさえ、「自分は自分でがんばってなんとかした。社会に期待するな!」と依存することを嫌うようになってしまった。そう思えてなりません。

コロナ禍で、誰もが自分のことで精一杯で。他者を思いやる余裕がなくなった?そう捉えることもできます。

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