「お前は勝負する男になれ!」と、励ましてくれたお母さん
お父さんはやり始めたことを途中で投げ出すのが、大嫌いな人だった。
「ごめんなさい、ちゃんとマジメにやるから」ボクはお父さんの前で正座をして頭を下げた。心底反省した。
「私からもお父さんに ちゃんといっておくから」と、そんな僕を見てお母さんも耳元で囁いてくれて。
翌日、学校から戻ると、2階から投げ捨てられペチャンコになっていたドラムが、傷ひとつないぐらい元通りになっていた。日曜大工のうまいお父さんが直してくれたんだ。
わかってくれればいいんだよ、やる限りは 一所懸命にやりなさい。元どおりになったドラムは、お父さんのそんな気持ちを伝えていた。
やがて兄貴たちとバンドを組むようになると、お父さんは得意の日曜大工で、部屋に防音装置を取り付けてくれて、家で練習ができるようにしてくれた。息子たちが夢中になって音楽をやっている姿が、 うれしかったんじゃないかな。
バンドで演奏するボクが、芸能界のスカウトの人の目にとまったのは高校1年だった。東京に来て歌手にならないかという誘いに、ボクはプロの歌手になりたいと決めた。あのとき、お父さんは大反対だった。
「音楽でメシが食っていけるか! そんな甘いもんじゃないぞ!!」と。
お父さんはあの性格だから、音楽なんかで食べてはいけない、中途半端なことはするなと、いいたかったんだろう。でもね、息子の性格が自分に似ていることも、わかっていたと思う。ある日、「やめろ!」といったきり、黙ってしまった。
一度いいだしたら、きかない子だ。もう決めてしまったのだから、何をいっても無駄だ。お父さんはそう思ったのでしょう。
歌手になりたいというボクに、お父さんが反対したときも、お母さんは味方をしてくれたね。
「どうしても東京に行きたいんでしょう。お父さんには私からあとでいっておくから。連絡先だけは教えてね」と、ボクの手にお金を握らせて。ボクはそのまま、東京行きの寝台列車に乗った。16歳のときだった。
あんなに反対していたお父さんだったが、ボクがデビューしたとき、ポスターを持って「息子をよろしく」と、ボクが卒業した学校の校門の前で、頭を下げてくれたそうだね。 後になってお母さんから聞いて、ちょっと、目頭が熱くなった。
お父さん、ボクはお父さんの大反対を押し切って上京した。中途半端では広島に帰れない。頑張るしかないと、それが心の支えだった。
上京して17歳でデビューして、次にお母さんに会ったのは25歳の時だった。広島でのコンサートの時、楽屋に差し入れの弁当を持ってきてくれたお母さんに、「男はね、勝負しても男、勝負しなくても男。お前は勝負する男になって」と、いわれた。
ボクが広島の実家の敷居をまたぎ、お父さんと向かい合ったのは30歳の時だった。
「もう、お前も大人なんだから、自分の考え方をしっかり持っていけ、体を大事にしろよ、頑張れ」。お父さんのその言葉を聞いたとき、ボクは男として、一人前になれたのかなと実感した。
ボクに子供ができたとき、親父のように子供に接することができるだろうか、ふとそんな考えが浮かぶ。
威厳を持った親父になりたい、そう思う気持ちの反面、あそこまで子供に厳しくすることが、ボクにできるだろうか。(ビッグコミックオリジナル1996年1月5日号掲載)
【イベント情報】
『Mr.シティ・ポップ 滝沢洋一の世界』
ゲストに音楽ライターの金澤寿和さんをお迎えして送るトークショー。近年、シティ・ポップの名盤として再評価が高まりつつある唯一作『レオニズの彼方に』発売から10月5日で丸45年となった、シンガーソングライター・作曲家の滝沢洋一。今回、滝沢の自宅から奇跡的に発見された大量のテープから、西城秀樹に提供された「かぎりなき夏」の滝沢オリジナル版、名曲ばかりの未発表作品、佐藤博アレンジの未発表音源、どこかで聞いたことあるCMソングなどを本邦初公開。なぜ山下達郎をメジャーにした『RIDE ON TIME』はあの音になったのか、アルバム『FOR YOU』は今なぜ世界で注目されているのか? なぜ米シカゴのDJは西城秀樹の「かぎりなき夏」を完璧な曲と言ったのか? 青山純、伊藤広規、そして新川博のプロデビューのキッカケを作ったニューミュージックの名付け親、Mr.シティ・ポップ 滝沢洋一の知られざる魅力に迫ります。
2023年10月7日(土)
15:00~17:00(14:30開場)
参加費=2,500円(当日精算)
※定員60名様、予約制
【予約方法】
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または電話(Tel.03-6821-5703)にて受付
件名「10/7 シティ・ポップ参加希望」
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【会場】
ESPACE BIBLIO(エスパス・ビブリオ)
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〒101-0062千代田区神田駿河台1-7-10YK駿河台ビルB1
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