あきらかに人災。熱海土石流事故を天災にしたがる静岡県知事の無責任

 

盛り土した場所が、大雨や地震で崩落する事故は過去に何度も起きているため、日本では「傾斜地に盛土した造成宅地で、盛土をする前の地盤の傾斜が20度以上、かつ盛土の高さが5m以上のもの」は「大規模盛土造成地」として自治体に報告することが義務付けられています。

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大規模盛土造成地マップ(熱海市)

各自治体は、この情報を元に「大規模盛土造成地マップ」というものを公開しており、誰でも参照が可能です(国土交通省の「大規模盛土造成地マップの公表状況等について」参照)。

熱海市も「大規模盛土造成地マップ(熱海市)」を公開しており、上の地図に相当する部分が下の画像です。

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不思議なことに、このマップには、崩落した場所が「大規模盛土造成地」としては掲載されていません(画像上部の「七尾」と書かれた部分の左上です)。定義として「傾斜地に盛土した造成宅地で、…」とあるので、「宅地」ではなければ登録不要ということのようです。

報道によると、この場所は元々、小田原の「新幹線ビルディング」という会社が残土処分のために入手し、盛り土をした場所ですが、盛り土をする際に土砂だけでなく、産業廃棄物を使ったことから市に注意された経緯のある、曰く付きの場所だそうです。

その後、この土地は一度熱海市によって差し押さえられ(差し押さえられた経緯は不明)、その後、個人に転売された記録が登記簿にあるそうです。

その人は、盛り土がされた部分には手をつけず、尾根の部分にのみ太陽光パネルを設置した、と弁護士を通して主張ています(「『盛り土、知らなかった』=土石流発生起点の所有者側」)。

そのため、盛り土をした「新幹線ビルディング」が適切な盛り土をしたかどうかが今後の争点になりそうです。「盛り土 厚さ15メートルの計画、実際は50メートル 熱海土石流」という記事によると、かなり出鱈目な工事をしていたようです。

以上の経緯を考えれば、今回の災害は「本来は宅地として安全に盛り土をすべき場所を、産業廃棄物の廃棄場にしてしまったため起こった人災」という話になってしまいそうですが、それで決着してしまって良いとは私には思えません。

日本中に「盛り土」で造成された土地がたくさんあり、かつ、平野が少なく、山の近くの扇状地に民家がたくさんあるという日本特有の事情もあるので、政府が積極的に動いて、この手の事故を未然に防ぐ具体的な政策を打ち出すべきタイミングだと思います。

土石流起点の盛り土、規制対象外の残土処分で届け出…全国で崩落事故相次ぐ」という記事によると、建設残土を盛り土として使った結果、それが崩落事故を起こすケースが多発しているそうです。残土処理の問題は、中央リニアのトンネル工事でも発生しており、残土が河川の汚染や崩落事故に繋がる可能性も心配されています(「リニア沿線 残土処理の問題 静岡県議が岐阜を視察」)。

特に今回のケースのように、山の谷間を埋める形の盛り土は、雨水の通り道を塞ぐことになるため、雨水が溜まりやすく、どうしても崩落の危険が伴うのです。日本では、その上に宅地を作る場合にのみ、厳しい規則がありますが、単なる残土や産業廃棄物の廃棄場として埋め立てられる場合には、規則がとても甘いため、こんな事故を起こしてしまうのです。

そう考えれば、今回の事故を受けて「下に住宅地があるような谷には(どんな工法であろうと)盛り土はしてはいけない」などの厳しい法律を新たに作るべきだと私は思いますが、そんな発言をする政治家が一人もいないのが、とても残念です。

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