消費時代は終わった。日本が江戸のライフスタイルで世界を牽引する日

 

3.デジタル革命は「脳と感覚器の革命」

世界を人体だとすると、産業革命は「筋肉と骨格の革命」だった。巨大なパワーを生み出し、工場や交通機関を動かした。巨大な筋肉を支えたのは、膨大なエネルギーを供給する化石燃料だった。

デジタル革命は、「脳と感覚器の革命」である。コンピュータは外部の脳であり、カメラやセンサーは感覚器である。そして、両者をつなぐ神経がインターネットだ。

世界という人体は巨大化しすぎた。最早、筋肉や脂肪により、内臓は押しつぶされそうだ。また、巨大な人体を保つためのエネルギーも足りない。大量のエネルギーを摂取し、大量の排泄物を放出するので、環境汚染も深刻になっている。

世界は代謝を下げて、ダイエットしなければならない。そして、肉体の活動を減らし、知的活動を増やすことだ。物質経済から情報経済へと転換し、我々人類の活動も頭脳的、精神的、感覚的な分野にシフトすることが求められているのである。

4.デジタルな江戸文化を再現できるか?

もし、家内制手工業の時代に、産業革命より前にデジタル革命が起きたら世界はどのように変わっていたのだろうか。もっと具体的に言うと、江戸時代にいきなりデジタル革命が起きたらどうなっていたのか。

江戸時代は幕藩体制であり、各藩は現金収入を得ようと特産品の開発を競い合っていた。しかし、化石燃料も使わず、エネルギーは完全に国内の薪炭、植物油等で賄っていた。そして、ほぼ全ての商品は家内制手工業で生産され、高度な問屋流通によって、全国に流通していた。

実は、大量生産の商品がないというだけで、実は高度なビジネスが行われていたのだ。

例えば、当時の吉原は、単なる色街ではなく、江戸で最高の格式を持つ芸者が在籍していた。そして夜毎、江戸中の大店の主人、大名、僧侶、役者、絵師、作家等が集まる文化人サロンの機能を備えていた。

そんな交流の中で歌舞伎役者は錦絵となり、背景には当時の大店の店頭が紹介され、役者が着る衣装には最新の流行柄が描かれていた。つまり、様々なタイアップやマーケティング活動が行われていたのである。

また、江戸市中の一般人の中から美人を見つけ出し、それを美人画の錦絵として販売し、現在のアイドルのような大ブームを起こしていた。

世の中に事件が起きれば、それをアレンジして歌舞伎の演目として上演する。その度に、長唄や清元、常磐津の名人達が新曲を書き下ろし、役者は振りをつけて踊り、新しいデザインの舞台衣装を誂えていたのだ。

こうした活動は、現代のエンタメと比較しても勝るとも劣らないだろう。これがもし、インターネットで世界に配信されていたら、パリでは数十年早くジャポニズムブームが起き、ヨーロッパに大きな影響を与えたと思う。

また、当時の高度な工芸品もまた、世界的注目を集めたに違いない。

日本にとっての産業革命は、富国強兵に多大な貢献をした。しかし、経済的成長の裏側では、日本は独自の文化を捨て、西欧文化の植民地となったのである。

グローバリズムが行き詰まった現在、我々はデジタルな江戸文化、江戸ライフスタイルを再現すべきなのかもしれない。完全なリサイクル社会とエネルギーの国産化によるサスティナブルな社会とライフスタイル。それを世界に発信することこそ、脳の時代の新たな産業になるのではないか。

ファッション業界からビジネス全体を俯瞰する坂口昌章さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • 消費時代は終わった。日本が江戸のライフスタイルで世界を牽引する日
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け