タリバンは本当に“悪”なのか?大国の意志に翻弄されたアフガンの真実

 

この混乱に乗じて勢力を伸ばそうとしているのが、中国、ロシア、トルコ、パキスタン、周辺のスタン系諸国です。

中国・ロシア・トルコについては、タリバンとの協力を支援の提供を公言し、3か国間で忙しく外相会談を開催するなど、とてもやる気満々と思われます。

以前にお話ししたとおり、アフガニスタンの混乱の長期化は、それぞれの国に対する反対組織の拡大を招きかねないという、こちらにも“自国の理由”があります。

中国にとっては、もともとはウイグル出身の過激派から成るETIMの影響がアフガニスタンを経由して新疆ウイグル自治区に及び、自国の庭を荒らすことを恐れていますし、ロシアは中央アジアの結束を強めるためには、ロシアに反対する勢力がアフガニスタン内に生まれることを警戒しています。そして隣国トルコにとっても、クルド人組織との結びつきを断ちたいとの思いで動いているようです。

そのような事情を十分に理解しているのでしょう。タリバンの幹部は、巧みに中ロ・トルコからの支援を引き出しています。

そして見落としがちなポイントがあります。私も繰り返し嘆いていますが、「20年前に逆戻りだ!」という分析は間違っているのではないかと思います。

それは、現在のタリバンは中東・北アフリカ、アジア、中南米諸国などに存在する反欧米武装勢力の支持を得ており、パキスタンのカーン首相は「タリバンがついに欧米の奴隷の鎖を断ち切り、真の独立への希望の光となった」と公言しているように、超大国アメリカに勝ったタリバンという栄光さえ強調されている事態です。

このことから見えてくるのは、“テロの可能性と、支援の可能性”をほのめかすことで、タリバンは中ロ・トルコのみならず、アメリカなどからも、テロ組織を抑える代わりに、支援を引き出すジョーカーを手にしたとも言えるかもしれません。

今回の案件で最も痛手を被ったのは、大国の気まぐれに振り回されるアフガニスタンの人々であることは間違いありません。

しかし、今回の混乱のトリガー(引き金)を弾いたアメリカのバイデン政権にとってもとても大きな痛手になったかもしれません。

第2次世界大戦の“戦勝国”になって、戦後秩序という新しい体系を築いたアメリカですが、1945年以降、アメリカは自らが仕掛けた戦争に負け続けています。60年代のキューバ革命、70年代のイラン革命、同じく60年代から1975年までのベトナム戦争、1991年以降泥沼にはまったイラク戦争、民主化のきっかけを作ったミャンマー、2001年から20年間コミットさせられたアフガニスタン…アメリカの視点からは、すべて大失敗と言えるでしょう。

そして国際社会的に言えば、他国を勝手にかき回して敵に回したか、崩壊させた超大国の思い上がりとも言えるかもしれません。

そして確実に1975年のサイゴン陥落と同じか、それ以上に、今回のカブール陥落は、アメリカの国際イメージに大きな傷をつけることになったのは確かでしょう(カブールから米軍のヘリが飛び立ち、輸送機がアメリカ人を乗せて飛び立った際、自分たちも連れていけ!と民衆が押し寄せた姿は、まさにサイゴン陥落を描いたミュージカル『ミスサイゴン』の第2幕(?!)の場面を想起させました)。

今回のバイデン政権による米軍完全撤退が最大の同盟国である英国にも相談されなかったということも後々影響することになるでしょうが、同盟国は今回の状況を見て、【アメリカが引き続き世界を主導する意志を持つのかどうか】について疑念を持つことになるでしょう。

そうなると、アメリカが同盟国を巻き込んで形成する“対中包囲網”の結束にも大きな影響がでるかもしれません。

自由で開かれたインド太平洋地域、クアッド、南シナ海における欧州との連携、台湾の“現状維持”へのサポート、そして尖閣諸島問題を含む東シナ海問題での連携…。

加えて“核廃絶に向けた動きの前に立ちはだかる”「核の傘」という概念も、今後、どこまで信憑性を持つか、それらが今後、外交安全保障上の再検討課題になるような事態になりかねません。

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