缶ビールに泡を立てろ。「ドライ頼み」の脱却に成功したアサヒビールの大逆襲

 

売れ過ぎて販売休止…~話題の生ジョッキ缶

新しい缶ビールは消費者に受け入れられるのか。3月22日、マーケティング担当の中島健と営業担当の八木健輔が向かった先は、東京・品川区のローソンの本社。全国発売は4月20日だが、コンビニでは4月6日から先行発売される。

この日、完成品を初めてローソンの担当者、飲料・食品部の中村良平さんと藤野麻衣子さんに見せたのだ。試飲した中村さんからは「まさに居酒屋とかお店でつがれたままの『スーパードライ』の味がして、今までの『スーパードライ』以上においしく感じます」(中村さん)と、高い評価を得た。

宣伝にも力が入る。生ジョッキ缶のCM戦略の指揮を執るのはマーケティング本部長の松山一雄。かつては消費者の声を徹底的に調査する世界企業P&Gでマーケティングを担当していた。その手腕を買われてアサヒに迎えられ、2年前からスーパードライのCMを一新させた。

これまでの「辛口・キレ」一辺倒から方向転換。菅田将暉さんや中村倫也さんら人気俳優を起用し、若者の共感を呼びそうなドラマ仕立てのCMを作ったのだ。今回は、2人に初めて生ジョッキ缶を飲んでもらい、そのリアクションにかける。こうしてアサヒは勝負に出たのだ。

4月6日。コンビニで「アサヒスーパードライ生ジョッキ缶」の先行発売が始まると、大反響を呼んだ。ネットには「どこに行けば売っている」「10軒回っても買えない」という声が続々と上がり、あちこちのコンビニで品切れ続出となった。

4月20日の全国発売日、スーパーには大量の生ジョッキ缶が並んだのだが、開店直後からお客さんが殺到。凄まじい勢いで売れだした。各店舗で売り切れ続出。製造元のアサヒビールは商品の供給が追いつかず、わずか1日で一時販売休止を発表する異例の事態となった。

アサヒの本社では緊急対策会議が開かれていた、物流担当者は「フル製造でどこの工場も空きがないパンパンの状態で製造を回しています」。特殊な缶の生産が追いつかず、増産体制もすぐには組めないと言う。

「正直言いまして、我々の想定の2倍、3倍というレベルではなく、もっと大きな売り上げをいただいた。お買いに来ていただいた方にお届けできないのは、メーカーとしての供給責任という部分で本当にご迷惑をおかけしていると思っています。心よりお詫び申し上げたいと思います。生産できる数はある程度、限りが見えていますので、どうしたらお客様にお届けできるか、協議していきたいと思います」(塩澤)

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ピンチの飲食店を救う!~「新しい営業」とは?

東京・台東区の「博多串焼かめや」は野菜などを豚バラで巻いた串焼きが看板メニューだが、実は最近、生ビールの売り上げが目に見えて上がっているという。

「お客さんに飲んで『お前のところのビールはうまい』と言って、喜んで帰る人が多いんです。生ビールの売り上げは1割増です」(店長・亀山雅仁さん)

その成功を後押ししているのが、アサヒビールの営業担当、松井あやだ。ただし普通の営業とは違う。この日、訪ねたのは、店に新しく従業員が入ったと聞いたからだ。始めたのはビールサーバーの洗い方のレクチャー。普通は店主にお任せだが、わざわざ教えに来た。グラスに関しても「洗った後は拭かずにそのままの状態で。拭いてしまうと繊維がグラスに付着して質のいいビールが提供できなくなってしまいます」と、アドバイスを送る。

こまめにサーバーを洗ったり、グラスに気を使うことでビールはおいしくなる。アサヒは飲食店と共存共栄。コロナショックの去年から営業がフォローに回っているのだ。

「おいしいスーパードライを飲んでいただくことで、1杯のつもりが2杯、3杯につながれば、飲食店にとってもメリットになると思いますので」(松井)

自転車に乗り換え、松井が次に向かったのは中央区の海鮮居酒屋「おさかな本舗たいこ茶屋」。創業40年。1500円でお刺身が食べ放題となるランチバイキングで人気の店だ。しかし、この店もコロナ禍でお客さんが減少。そこで大将は商売を広げることにした。

「店に飲食しに来るお客さんが極端に減ったので、テイクアウトや宅配に力を入れています」(大将・嵯峨完さん)

松井が取り出したのは、用意してきたテイクアウト用の容器。アサヒと取引のあるメーカーのサンプルを取り寄せてきたのだ。今までは市販品を使っていたが、しっくりこなかったと言う大将は、早速、サンプルを試してみた。

ビールメーカーの営業という枠を超えて取引先の役に立とうと動いている松井だが、最も喜ばれたことがある。「家賃支援の給付金。松井さんに提案していただいて、交付を受けています」(嵯峨さん)。手続きの複雑な給付金の申請方法を分かりやすく資料にまとめ、アドバイスしたのだという。

「非常にやり方が難しいですから、こうして手伝ってもらって、本当に助かっています」(嵯峨さん)

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