すべては米国の「お芝居」か。アフガン首都陥落と自爆テロに残る“疑念”

 

米軍完全撤退後にブリンケン国務長官が述べたように、「軍事的な手段による対応は終わった。今後は外交的手段の出番だ。アメリカは外交的なチャンネルを通じて、今後もアフガニスタン、そして地域の安定に寄与する」というのがバイデン政権のアメリカと、欧州の同盟国のスタンスと思われますので、支援というカードをちらつかせ、タリバンに圧力をかけ、影響力の維持・拡大を狙っているものと思われます。

そこに横やりを入れ、欧米の“たくらみ”を無力化しようとするのが、中国とロシア、そしてトルコによる対タリバン支援ではないかと思います。

今月の上海機構の会議、そしてカブール陥落前にウズベキスタンで開催された中央アジア・南アジア協力会議などの場で、タリバンのアフガニスタンが上手にこの輪の中に入ることが出来れば、支援問題は解決される可能性があります。そして欧米諸国が目論む勢力圏維持と拡大という可能性は消えることになるでしょう。

それらを根本からダメにする可能性があるのが、先ほども触れたテロ組織が拡大して、不安と恐怖がアフガニスタンとその周辺国を覆うようなケースです。

しかし、このISIS-Kなどによる動きが、仮にタリバンとのconcerted action(申し合わせたうえでの共同の行動シナリオ)だったらどうでしょうか?

あくまでも推測に過ぎませんが、どうも腑に落ちないことが多くあるのです。

チェックポイントにいたタリバンの兵士もテロの犠牲になったと言われていますが、真実は謎に包まれています。

かりにConcerted actionであったとすれば、恐怖をあおることで、「タリバンはテロとの戦いを行う」と掲げることで、外交的なコミットを続けると宣言する米・欧との関係構築の機会を探ることが出来、また凍結されている支援の再開にもつなげられる可能性が出てきます。

新たな支配者・後ろ盾の座を狙う中ロにとっては、現在の混乱の中で最も避けたいのは、自国へのテロの伝播と国内情勢の不安定化であり、それを防ぐためにタリバンによるアフガニスタンへの支援の幅もサイズも増える可能性が出てくるかもしれません。

もしそうだったら、誰が(どの国が)この指揮棒を振っているのかなあと、国際政治の怖さを垣間見るのですが…。

タリバンによるカブール陥落は、アメリカ軍の撤退の確定と、アメリカ政府の特使とタリバンのリーダーシップとの協議(@カタール)、そしてカブール陥落後、「タリバンとの対話の準備がある」と繰り返す米国政府という言質によって、決定的になったと考えられます。

メディア上では「アメリカ外交の失敗」と大きな非難を受け、アメリカの同盟国からは「アメリカは本当に有事に守ってくれるのか」という疑心暗鬼を生ずる事態になっていますが、もしこれが、批判はされても、アメリカの負担を大幅に軽減し、厭戦ムードにも応え、そのうえで中央アジアにおける影響力を残すためのお芝居だったとしたら…。

カブール陥落から2週間という短い期間で公言通りに米軍を完全撤退させましたが、その完遂のために、バイデン政権がトランプ政権の遺産ともいえる【タリバンとの対話チャンネル】をフルに活用し、タリバンと米国政府双方にとって結果的にwin-winの結果を導き出すための演出だったのだとしたら…。

そしてISIS-Kによって実行されたと言われているカブール国際空港での自爆テロでさえも、COVID-19のパンデミックで各国の関心が「テロに対する戦い」から離れていると思われる中、テロリズム・テロリストという共通の敵を設定することで、国際協調体制の再構築を測ろうとしているのなら…。

これらはあくまでも私の推論に過ぎないかもしれませんが、先行きが見えない国際情勢を分析にする際に、考えておく必要がある重要な問いなのかもしれなません。

とはいえ、ここでもピュアな被害者は、やはりアフガニスタンの一般市民です。彼らに平和で希望に満ちた毎日が、一日も早く戻ることを心から祈っています。

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