規定回数のワクチン接種を終えていても、感染自体は防げないとされる新型コロナウイルス。そのような状況の中、会社サイドからの要請を無視する形で感染リスクの高い行動を改めない社員に対しては、どのような対応を取ることができるのでしょうか。今回の無料メルマガ『採用から退社まで!正しい労務管理で、運命の出会いを引き寄せろ』では社会保険労務士の飯田弘和さんが、そんな社員に対する「企業が不利益を被らない対処法」をレクチャーしています。
プライベート上の行動への制限について
接客業を営む事業主さんから、こんな質問を受けました。
「プライベートでコロナ感染リスクの高い行動をとる従業員に対して、コロナが落ち着くまで控えるようお願いしたが、応じられないと拒否された。どうすればよいか」
事業主としては、とても悩ましい問題だと思います。特に、接客業という事であれば、自宅でのテレワークも難しいでしょう。かといって、その従業員がコロナに感染していた場合、他の従業員やお客様に感染が拡大しかねません。その従業員が、しばらくの間、感染リスクの高い行動を自ら控えてくれれば、それが一番良いのですが…
プライベート上の行動を事業主が制限することは難しいでしょう。事業主の名誉や評判を著しく貶める蓋然性が相当高い場合でなければ、従業員のプライベート上の行動に対して、指示や命令をすることはできません。そうなると、事業主の対応としては、かなり限られたものになります。
対応策の1つとして、その従業員を休業させることが考えられます。ただし、この場合には、労基法26条に定められた“休業手当”の支払いが必要になります。休業手当の金額は、労基法で「平均賃金の60%以上」とされています。ですから、事業主の都合で従業員を休ませた場合でも、平均賃金の60%を支払えば労基法違反とはなりません。しかし、民事的には、労働者には100%の賃金請求権があるので、必ずしも、休業手当を支払ったから問題がないとは言い切れません。
では、その労働者に辞めてもらうのはどうでしょう。辞めてもらうには、“解雇”の他に“退職勧奨”が考えられます。解雇を行うのであれば、労基法によって、その労働者に対して解雇の30日前に通知するか、あるいは、その不足の日数に対して“解雇予告手当”という金銭を支払わなければなりません。ただし、これとは別に、解雇の理由が事業主の“権利の濫用”に該当しないかどうかが問題とされ、それ相応の理由がない解雇は民事的に“無効”となりかねません。
ですから、できれば、退職勧奨を行って、合意退職を目指すのが良いでしょう。この場合には、退職のための条件交渉において、可能な範囲で、労働者の意向を汲んであげることが、退職をスムーズに進めるコツです。そして、退職の合意ができたのであれば、退職条件等の記された“退職合意書”を交わしておくことが、後々の紛争を防ぐ意味で重要です。
ちなみに、先ほどの休業について、もし、その従業員がコロナに感染した場合には、当然に保健所から外出禁止等の指示が出るでしょうし、その従業員を休ませても“事業主の都合による休業”とは扱われません。ですから、休業手当の支払いは不要であり、無給で構いません。ただ、もし、その従業員が健康保険の被保険者であるならば、“傷病手当金”を受給できる場合があります。傷病手当金の詳細は、協会けんぽや各健保組合にお問い合わせください。
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