対面販売を重視してきた高級化粧品ブランドは、コロナ禍での制約により苦戦しているイメージがありますが、世界最大級の化粧品会社で有名ブランドを多く展開するロレアルは、コロナ前の2019年と比較しても増収増益と伝えられています。業績好調の理由を紐解くのは、メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』著者の理央さん。顧客へのメール送信など、これまで店舗の美容部員が個別にしていたことをブランドとして行うようになるなど、ライフタイムバリューを重視した戦略に学ぶべき点があると伝えています。
なぜロレアルは、ブランドとして優良顧客にメッセージを発信するようにしたのか?
ロレアルの業績が好調です。ロレアルは世界でも最大級の化粧品会社で、「ランコム」、「メイベリン」「キールズ」、などといった有名ブランドを多く抱える大企業です。2021年の上半期は、昨年対比で増収増益。2019年と比較しても増えているので、コロナ前の水準に戻ったということです。
その日本ロレアルがここのところ、化粧品を購入した顧客のスマートフォンに、ランコムや、キールズといったブランドからのメールを、定期的に届けるようにしたそうです。
海外の高級ブランドからお客様へのコミュニケーションは、やはりイメージを植え付けるための、洗練されたテレビCMや、ファッション雑誌でのブランド訴求の広告が中心でした。そして、ブランドのイメージが自分にマッチする、と感じる顧客層が、デパートの1階にある化粧品売り場に来て、専門の美容部員の方にコンサルティングを受けつつ購入する、いわゆる対面での販売への誘導が一般的でした。
実際に、日本ロレアルでもこれまでは、現場の美容部員の判断でメールや手紙を送っていたそうですが、これからはランコムとかキールといった、ブランドからのメッセージを顧客に送るようにしたそうです。
日経新聞によると、ロレアルでは、「これまでの製品中心の考え方から、顧客を中心に考えていく方向に転換した」とのこと。
化粧品に限らず、製造業の場合、どうしても特別に差別化されたものを作りたい、という考えから、製品をいかに良くしていこうかと考えます。これはとても正しいことなのですが、同時にお客様に買ってもらえなければ、どんなにいい製品を作っても、ビジネスとして成り立ちません。今はロレアルのように、お客様のことをより深く考えて、欲しいと感じてもらうようにしよう、という動きをする企業が増えてきています。
今回ロレアルは、1人のお客様が最初に買ってもらって、ずっと買い続けてもらい終わるまでの間に、どの程度の収益が上がるかを示す、「お客様の生涯価値=ライフタイムバリュー」を重視するとしています。具体的には、「買ってもらえる期間、1回あたりの単価、購入の回数」の3つの掛け算で計算します。ここに、広告や販売促進費などのコストも計算に入れて、その事業やブランドの収益性を評価します。
商売として、お客様が一度だけの購入ではなく、ある程度の長い目で見て、リピートで買ってくれることを、考慮に入れているのです。これまでは美容部員さんが中心になって、自分のお客様にしていたことを、ブランドとして行っていくことにしたということです。やはり高級な化粧品といっても、商売は商売ですので、売り切りではなく、継続の商売にしていく、という姿勢が、好業績に繋がっています。
このロレアルの事例から学べるのは、ブランドを構築し、マネジメントすることは、単なる手法論ではなく、収益の計算や投資対効果も含めて、中長期的な「事業戦略」にすべきということです。あなたもぜひ、自社の製品やサービスを振りかえり、LTVの視点で考察をしてみてください。
image by: TY Lim / Shutterstock.com