4日の臨時国会で第100代内閣総理大臣に選出され、同日夜に就任会見に臨んだ岸田文雄氏。その席上でも「中間層の所得拡大」に言及した首相ですが、実現は可能なのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、日本が貧しい理由を明らかにした上で、岸田政権が「取るしかない」4つの経済成長政策を提示。その上で、バラマキでは日本経済は復活しないと強く警告しています。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2021年10月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
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中間層の所得倍増? 岸田新政権の経済感覚を疑う
岸田政権が発足しました。当面は、自民党内の中道左派、つまり全政界の中ではほぼ完全に中道というポジションでの政策が進められそうです。清和会支配が途切れることで、ロシア人脈、中国人脈、北朝鮮人脈などに不連続性が生まれるのが少々懸念されますが、外務大臣を長くやっていた岸田氏ですから、省内の表もウラも感覚をつかんでいるのであれば、当面は心配はないと思います。
安倍政権のように、本籍は日本会議的な右派に置いておいて、だからこそ右派に足を引っ張られずに譲位改元、日韓合意、日米相互献花外交などの中道政策を進めたり、非知識人的なキャラをフル活用してトランプの暴虐を凌いだ「ウルトラC」は期待できないかもしれません。
ですが、反対に、岸田さんが原稿を読んでいる姿には、少なくとも内容の行政的な意味と政治的な意味について、中の人なりに理解して読んでいるという安心感はあります。これは貴重であり、少なくとも森、小泉、安倍1、福田康、麻生、鳩山、菅直、のだ、安倍2、スガといった「全ての案件を把握できていない」宰相と比較すると、明らかに「まし」という感じもあります。
とりあえず、電光石火で解散総選挙に向かうという作戦も、合理的と言えば合理的であり、グズグズしていて政局を混乱させるよりは評価したいと思います。
心配なのは経済政策です。5つ指摘したいと思います。
1.分厚い中間層を復権させて、所得を倍増すると称しています。方針としては大いに結構です。今や、日本の一人当たりGDPは3万ドルを割り込もうとしています。そんな中で、中間層を持ち上げて、これを4万ドル台に戻すことができれば経済としては希望が出てくるのは間違いありません。
問題はその方法です。どうして日本が貧しいのかというと、生産していないからです。どういうことかというと、とにかく生産性の低い「日本語」「紙とハンコ」「対面コミュニケーション」に依存した事務仕事、つまり日本式オフィスワークが、全く何も生み出していないからです。つまり、コストを発生させるだけで、経済の足を引っ張っているのです。
よく、ITとかサービスについて「中抜き」が横行していると言われます。事実だと思います。本当にヒドいです。ですが、中抜きをしているのは反社でもないし、強欲な経営層でもありません。そうではなくて、中抜きしたカネは、肥大化した「本社事務部門」の経費として消えていくのです。
大手派遣会社の中抜きも、ITベンダーの中抜きも、小売店やコンビニの本部経費も全部そうです。何も産まない「本社事務部門」の経費として消えていくし、その結果として、同じ売上に対して薄く広く人件費がバラマかれて、全体が貧しくなっていくのです。
この構造を打破して、大卒50%という超高度教育国家の人材が、しっかり稼いでくる仕掛けにしなくてはなりません。具体的には、英語とコンピュータはマストで、これにプラスして、世界に通用する感性や文明のレベルでの提案力、構想力、コミュニケーション力、要するに21世紀の稼げる高付加価値型の知的労働に転換しなくてはならないのです。
そのことを岸田氏が分かっているのか、これは大きな分岐点になります。このことを分からないで、保守的な財界の言いなりに金をバラまいても、乾いた砂浜に水をやるように、アッという間に金は消えてしまいます。そして所得倍増などというのは夢のまた夢、結果的にドル建てのGDPは一人あたり2万前後をウロウロするだけの二流国家になってしまいます。
一つの試金石は、25年の大阪万博です。現状の延長で考えると、この時点で日本で万博をやって大成功を収めるには、日本の財界のパワーでは無理です。日本の財界は最終的に崩壊はしていませんが、既に国外が中心のビジネスであり、日本国内のマーケティグのために巨額の予算を用意してパビリオンを運営する余裕などはないでしょう。
そうではなくて、大阪万博は英語を公用語にして、オールアジアから出展企業を集めて、ヒト、モノ、カネが思い切り元気に飛び交うようにしなくてはなりません。そのような判断を内閣としてできるか注目したいと思います。
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