4.心配なエネルギー問題は、今回の総裁選で立派に争点となって、限定的再稼働の機運が出てきたのは良いことだと思います。ですが、それで排出ガス問題がクリアできるわけではありません。安心して気が緩んではダメということです。というのは、本格的な再稼働には世論はまだまだ納得していないし、反原発のムードを集票に使おうとしている政党がウジャウジャあるのは変わりません。
もっと責任を持って再稼働と、その期限をしっかり切り、日本のエネルギー政策の中長期ビジョンを打ち立てるべきです。当面は、原発再稼働で火力発電を停止に持っていき、その中で自動車や製鉄などの重工業の空洞化を防いで、何とかGDPを確保、そこで時間を稼いでいるうちに、もっと省エネ型の知的産業に転換する、そのような時間軸を明確に打ち立てるべきと思います。
5.問題は、年金改革やこれに伴うベーシックインカム論議などの、出口を早く決めて安心したいという動きです。河野太郎氏は、安易にこちらに走って失速したわけですが、そこには一種の必然があると思います。
とにかく、上記の1.から4.という経済成長政策をやって、日本のGDPを先進国から滑り落ちないところで踏ん張るしかありません。年金の支払い能力や、健保の維持をするだけの国力は、そこからしか来ないのです。今回指摘した4つの点は、改革ではないと思います。現状維持のために実務から発想すると、このような変更が、つまり高い教育水準を「英語とコンピュータ」で時代に追いつかせ、日本型空洞化を止め、教育をこれに適合させて、とにかく稼ぐことは、日本の生存戦略としてマストです。
この種の変更を改革というのはもう止めたいと思います。これが実現可能な狭いゾーンであり、これを外れたら破滅しかない、従ってこうした時間軸からの発想は、唯一の現実であると思います。そうした現状認識があるのかどうか、岸田氏の能力について、とにかく見極めて参りたいと思います。
新自由主義を止めて、新しい資本主義を目指すというのは、それを岸田氏が額面通りに考えているのなら問題です。そうではなくて、流行に乗って「今風にやります」という以上でも以下でもないと思います。日本経済はバラマキでは復活しないし、日本語と紙と対面の仕事を続ける限り中間層は復活しないからです。
ただし、岸田氏がマーガレット・サッチャーや、河野太郎のように敵を作って撃破するのでは、この成熟国家の進路を変えるのは難しいでしょう。そうでは「ない」、喧嘩腰ではない形で、この時代遅れの国家を進むべき方向に軌道修正するのであれば、活路はあると思います。そうではあるのですが、本当に進路を変えるつもりがないのなら、この先には座礁か沈没しかないと心得るべきでしょう。
(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)
政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報が届く冷泉彰彦さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ
初月無料購読ですぐ読める! 10月配信済みバックナンバー
- 【Vol.398】冷泉彰彦のプリンストン通信『岸田新政権の経済感覚を疑う』(10/5)
<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>
※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。
- 【Vol.397】冷泉彰彦のプリンストン通信『総裁選直前、各候補を比較する』(9/28)
- 【Vol.396】冷泉彰彦のプリンストン通信『アベノミクスの功罪』(9/21)
- 【Vol.395】冷泉彰彦のプリンストン通信『911テロ20周年の追悼』(9/14)
- 【Vol.392】冷泉彰彦のプリンストン通信『911テロ20周年+政局緊急特集』(9/7)
- 【Vol.393】冷泉彰彦のプリンストン通信(8/31)
- 【Vol.392】冷泉彰彦のプリンストン通信(8/24)
- 【Vol.391】冷泉彰彦のプリンストン通信(8/17)
- 【Vol.390】冷泉彰彦のプリンストン通信(8/10)
- 【Vol.389】冷泉彰彦のプリンストン通信(8/3)
- 【Vol.388】冷泉彰彦のプリンストン通信 アメリカから見た東京五輪の開会式中継(4つの観点から)(7/27)
- 【Vol.387】冷泉彰彦のプリンストン通信 東京五輪を直前に控えて、安全と安心の違いを考える(7/20)
- 【Vol.386】冷泉彰彦のプリンストン通信 日本人差別事件に関する3つの視点
(7/13) - 【Vol.385】冷泉彰彦のプリンストン通信 バイデン政権の弱点は、反ワクチン派と副大統領周辺か?(7/6)
- 【Vol.384】冷泉彰彦のプリンストン通信 バイデン政策と現代資本主義論(政府の役割とその限界)(6/29)
- 【Vol.383】冷泉彰彦のプリンストン通信 資本主義は修正可能か?(その2、改めて議論を整理する)(6/22)
- 【Vol.382】冷泉彰彦のプリンストン通信 資本主義は修正可能か?(その1、現代の価格形成トレンド)(6/15)
- 【Vol.381】冷泉彰彦のプリンストン通信 コロナ・五輪の迷走が示す「お上と庶民」相互不信の歴史(6/8)
- 【Vol.380】冷泉彰彦のプリンストン通信 ロッキードと現在、政治の不成立(6/1)
- 【Vol.379】冷泉彰彦のプリンストン通信 台湾海峡をめぐる4つの『ねじれ』(5/25)
- 【Vol.378】冷泉彰彦のプリンストン通信 五輪追加費用、問題はIOCより国内の利害調整では?(5/18)
- 【Vol.377a】冷泉彰彦のプリンストン通信 五輪の食事会場に『監視員配置して会話禁止』、どう考えても不可
能(5/14) - 【Vol.377】冷泉彰彦のプリンストン通信 東京五輪をめぐるカネの話を怪談にするな(5/11)
- 【Vol.376】冷泉彰彦のプリンストン通信 衰退途上国論(5/4)
- 【Vol.375】冷泉彰彦のプリンストン通信(4/27) (緊急提言)コロナ政策、全面転換を主権者に問え!
- 【Vol.374】冷泉彰彦のプリンストン通信(4/20) 菅=バイデンの「対面首脳会談」をどう評価するか?
- 【Vol.373】冷泉彰彦のプリンストン通信(4/13) 政治はどうして『説明』ができなくなったのか?
- 【Vol.372】冷泉彰彦のプリンストン通信(4/6) 主権者が権力を委任しなくなった未来国家ニッポン
- 【Vol.371】冷泉彰彦のプリンストン通信(3/30) オワコンばかり、3月4月のイベントは全面見直しが必要
- 【Vol.370】冷泉彰彦のプリンストン通信(3/23) 中国の経済社会は、ソフトランディング可能なのか?
- 【Vol.369】冷泉彰彦のプリンストン通信(3/16) 五輪開催の可否、3つのファクターを考える
- 【Vol.368】冷泉彰彦のプリンストン通信(3/9) 311から10周年、被災地だけでない傷の深さ
- 【Vol.367】冷泉彰彦のプリンストン通信(3/2) 日本でどうしてトランプ支持者が増えたのか?
image by: 首相官邸