2.これに関連して、現在の日本を貧乏国に貶めているのは、日経新聞の購読者やテレ東さんの「WBS」の視聴者などがそうだと思いますが、
「日本経済」=「日本発の多国籍企業の連結決算の合計」
だという誤解です。
例えば、トヨタの北米での業績がいいとか、川崎重工や日立が某国で鉄道車両の大量受注をしたとかいうニュースを見ると、「まだまだ日本経済は元気」だなどと勘違いする人が多いわけです。
例えばトヨタの北米市場向けの製品の場合は、北米産がほとんどとなっています。部品は日本が多いですが、日本で協力会社が作る部品を中国製と合わせて北米で完成車に組み上げているのです。ですから、北米で車が売れると、北米での売り上げ利益になります。
そして、その利益はほとんど日本国内には還元されません。現地で再投資され、そして今は外国人の方が多い株主に配当されて終わりです。確かに日本企業が世界一になったりするのは誇らしいですが、それで日本が豊かになるわけではないのです。
問題なのは、各企業が技術的に最先端の部分をドンドン国外に出していることです。ITの多くはシリコンバレーで研究開発を行い、自動車メーカーなどのAIがらみの研究開発も国外です。デザインやマーケティングもそうです。
結果的に日本発の多国籍企業は儲かっても、日本国内への還流はほとんどありません。こうした「日本型空洞化」というのは「日本病」の深刻な原因となっているのですが、総理にその危機意識があるのかを問いたいと思います。
3.更に心配なのがバラマキです。中間層を救うということになれば、現役世代の、つまり子育て家庭になると思います。これに対して、減税かあるいは直接給付ということを考えているのだと思います。となると、給付の目的は具体的には教育費ということになります。
これが問題で、例えば現在の教育には3つの大きな問題があります。
1つは、特に大都市圏の場合に中学校の公教育が崩壊していて、塾通いをして中高一貫校に入れるし、更に大学受験のために中高でも塾通いを続けるという「二重負担」があることです。中国や昔の韓国が強行した方法がいいとは思いませんが、公教育だけでは上の教育機関に進学できないというのは異常です。
2つ目は数学、英語、コンピュータを中心に学習内容を世界で通用するレベルにしないといけないという問題です。これに失敗すると、子育て家庭は公教育と受験塾と、グローバル対応の塾と3つに通わせるという過酷な負担に苦しむことになります。3つ目は、そうした新時代への対応に地域間格差があることです。
こうした問題を解決せずに、旧態然とした公教育+塾というバカバカしい二重負担が残る中で、金だけバラまいても、その結果のリターンは限られます。教育に投資するというのは、マクロで見ても国家の将来に対する健全で正攻法の投資になるはずですが、改革が伴わず、ポンコツなままの教育体制を放置して金をバラまいても、これもまた乾いた砂に水が吸い込まれるように消えるだけです。
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